「嫌われるのが怖いんだろう? そんなの、ただあおいさんから逃げてるだけじゃないか」
「……違うし」
「違うんだったらできるよな。最後まで」
「……何言ってんの」
「自分が、あおいさんをたくさん傷つけたと。オレと偽りオレとくっつけようとしたと。いろんな人を駒にして操り、脅しまくった最低な悪魔だと。お前の口から、あおいさんに言ってやるんだな」
「……だから、しないってさっきから言って」
「花畑? そんなの知るか。お前の頭の中が花畑なんだろうが。そんなところにはオレは行かない。というか、引っ張られてただけだから道順なんて覚えてない」
「レン。それはちょっとどうなの……」
「そこにあおいさんが来て? 神父が自己紹介をする? ……違うだろ。オレと偽っていたことを言うんだろうが」
「………………」
「そこであおいさんに、精々幻滅されればいい。あおいさんに嫌われればいい。そうしたら、オレがちゃんと彼女を幸せにでも何でもしてやろう。こっぴどく振られればいい。お前が最低だと。生きていたことも隠して。酷いこともしてきて。偽った人間だと! ……傷つけばいい。お前だけ平気だなんて、そんなことオレが許さない」
オレを蔑むような目で見下ろし、仮面を着けたレンは、大きな音を立てて部屋を出て行った。
「(あーあ。オレ、帰れないじゃん……)」
流石にもう、変わった状態でみんなのところに戻ってしまえば尋問に遭う。いや、レンになりきればまだいけるか……。
「まあ~だ、逃げようなんてそんなこと、考えてるんじゃありませんよねえ?」
口調はいつもと同じようだけれど、その表情や雰囲気にトゲがある。
「は? 嫌だし。なんで言わないと」
「往生際が悪いですねえ。でしたら、やっぱり彼女には消えてもらうしかありませんかねえ?」
「……何言ってんの。本気だったら殺す」
「おお怖。ですが、今のあなたに何ができるって言うんですう? ああ。レンくんがあなたの代わりになれるか心配なんですか? 大丈夫ですよ。レンくん、あなたの声真似、とってもお上手だったんでえ」
そう言ってカオルが、そのレンがオレの真似をしたものを録音したんだろう。それをオレに聞かせてきた。……いや、まあ似てるけどさ。
「……正直、九条さんにはがっかりですう」
「あっそ」
「でもぼくもレンくんも本気なんで。……傷付くのが怖い? そんなの知ったこっちゃありませんけど、あなた見てるとイライラするんですよ。正直、彼女に叩きのめされるところが見たいですね」
口調にどんどん刺々しさが増してくる。
「お情けをかけてあげます。皆さんには、最初から最後まで。絶対に仮面は取らないようにと伝えてきてあげましょう。そうしたら皆さんには、あなたが変わってることなんてわかりませんからね。……レンくん、似てますよ。本当に」
似てる似てないの問題じゃない。もはや、どっちかと言ったらみんなにバラした方がマシだ。……あいつだけは。あいつに、だけは……。



