「お前だけ助かろうなんて。……そんなことさせて堪るか」
「……たすか、――むぐっ」
なんだっていうんだよ。今度はバナナを突っ込まれたしっ。
「だってそうだろう。オレらは、嘘偽りなく皆さんに。そしてあおいさんにも、自分がしてきてしまったことを話した。お前の指示でだ」
「(だって、そうしないとみんなが助からない。みんな、やりたくてやったわけじゃないんだってことを言わないと……)」
「それなのに、お前だけはいろんな人に嘘を言ってもらって隠してもらって? それで、あおいさんには最後まで言わない。棋士だからか? いいご身分だな」
「(……だったら何さ。オレのことは言う必要なんてないからだし)」
「まあ今までいろいろ助けてもらってたから、妥協はしてやろう」
「れん……」
そう言ってレンは、オレに近づいてきて目線を合わせてくる。
「なあ九条。なんでお前はそんなことをしたんだ。言ってたな、あの時。オレ以上に最低な奴はいない。大切な人にこんなことするなんてと。……それは、あおいさんを傷つけて、追い込むことだろう?」
「………………」
「……そうか。盗聴器もか」
「オレは……」
「だから自分が最低だと言うのか? こんな自分じゃ、彼女の横に立てないと。だからオレになったのか? ただ王子とまわりから呼ばれてるオレに」
「………………」
「……そうか。そういう最低な人間だと皆さんに……あおいさんには思われたくないから、自分を隠したのか」
「………………」
「隠して隠して。……こんな自分なんか知らずに、あおいさんが幸せになってくれるのを。遠くから見ていたいんだな。お前は」
「……れん……」
眉を下げ、泣きそうな顔をしながらレンは、オレの頭へそっと手を伸ばしてきた。
――ごつんっ!!
「「――ッ!! ~~っつ……」」
と思ったらレンは、思い切りオレの髪を掴み、頭突きをしてきた。……痛い。痛いから押さえたいのに。縛られてて何もできずにただ悶絶するだけとか。
レンは……いいよね。自由な身で。頭を押さえてしゃがみ込んでる。自分がしたんだからね? ふざけんなマジで。
「……っ、れん! 何がしたいの! 馬鹿なんでしょ!」
「~~……っ。アイさん氷……」
「はいは~い」
「はあ。……しょうがないから九条さんはこれでも貼っておいてくださあい」
そう言われて、カオルに何故か熱冷ましを貼られた。……どっから持って来たの。
「……く、じょう……」
「……弱いね、相変わらず」
熱冷ましのおかげでちょっとはマシ。 ガンガンするけどね。
「……逃げるな」
「レン……?」
前にも言われた。モミジに。別に、逃げてるわけじゃないのに。なんでみんなしてそんなこと。
「……ッ、お前だけ言わないままに『はい終わり』とか! そんなことさせるわけないだろ! ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてるのはそっちでしょ。誰のおかげでこうやって助けてやれたと思ってんの」
「だから言っただろう妥協してやると! ……皆さんには言わないでおいてやる。けど、あおいさんにはきちんと話せ」
「嫌だって言ってるじゃん。そんなの、ここで舌切って死んだ方がマシ」
「それをして傷付くのは誰だ。わからないわけじゃないだろ」
「……死ぬわけないじゃん。嫌だし、そんなの」
誰が好き好んで、あいつの幸せな姿見ずに死なないといけないのさ。



