そんな会話をしていたら、あっという間にオレンジが隠れてしまった。
「この期に及んで抵抗するなら、参加者全員に、お前がお姉さんと入れ替わってあおいさんに昔から会っていたことを言う。あおいさんにも言ってしまおう。全部全部。お前が仕組んだことだと。オレの口から」
「………………」
「……誰が、王子様だって……?」
「……え。レン。まさか……」
「なんでオレの記憶がぽっかり抜けてるのか。よ~くわかった」
そう言っている間に、レンはカオルに、銀色の頭を隠してもらっていた。
「はい。九条くん? あ~ん」
「え? アイ――んぐっ」
大事な話をしているというのに、アイはオレの口の中にカ〇リー〇イトを突っ込んできた。
「お前にもチェックメイトだな。九条」
「(……いや、これは“カ〇リーメ〇ト”)」
「はい。よく噛んでねー」
何故かアイが、よしよしとまるで小さな子供を相手にするかのように頭を撫でてくる。……不愉快。とっても不愉快。
「……どんな夢物語を描いてたのかは知らないけどな」
「(やっぱりレンの奴、思い出して……)」
……どうしてだ? だって、トリガーっていっても、あの写真はオレの家にあるし……あれか? カオルがみんなの記憶を戻すために小瓶を取り出して……いや。あの時、レンはいなかった。
「王子なんてな九条。その人にはその人だけの王子がいるんだ」
「……だから、それがレンなんだって」
「あおいさんがそう言ったのか。違うだろ。お前が勝手にそう言ってるんだろ」
「……だったら何。オレは、レンがあいつの王子だと思ったからそうしただけじゃん。あいつが幸せになれるようにそうしただけじゃん」
「吹っ切れたな。隠すつもりはないか」
「だって思い出したんでしょ。だったらもう今更隠したってしょうがないから、……論破する」
「ガッツリ抵抗してるじゃないか。言っただろ、抵抗なんてさせないと」
「するに決まってるでしょ。……なんでオレがまたこんなのしないといけないの。意味わかんない」
そうこうしているうちに、レンの頭がオレンジ色で覆われた。
背格好はそんなに大差ない。というか似てる。だから、髪色を変えたら、後ろ姿だけ見たらきっと見間違えるだろう。
「初めて彼女と直接話した時から、様子がおかしい思っていたんだ。余所余所しいくせに、誰かと重ねているような。どこかぼんやりしていた」
「ぼんやりって――んぐっ!?」
「はあい。喋ったら気管に入りますよお?」
今度はカオルが、リ〇ビ〇ンDを突っ込んできた。シランさんからもらったタキシードに黄色いシミが残ったらまずいと、それは必死で飲んだ。
「それはそうだろうな。お前がオレになって、後夜祭で何かしてたんだ。そうだろう?」
「(……名前言ってないしっ!)」
「あの頃のあおいさんは、オレに尊敬とか羨望というか。好意の目は向けてくれていた。変だ変だと思ったんだ」
「(普通に一目惚れとか、そっちに取れよ……!)」
「理事長と、コンテストの時何かを話してた桜庭さんなら何か知ってるんじゃないかと思ったら案の定。よかったな。とってもいい“お姉さん”で」
「ぷはっ! ……キサぶっ飛ばす!!」
「そこであおいさんの気をオレに惹かせようとしたんだろう。人の姿を借りないと、お前は素直に好きだとも言えないような臆病者だ」
「……だったら、何」
だって、最初から隠してた。自分という存在を。今更なんだっていうの。知ってるし。最初からオレは、あいつに声を掛ける勇気すら持ってない。だから借りたんだ。ハルナを。レンを。
でも、これでもう最後なんだ。あと、少しなんだって……!



