そしてどうやら、へとへとのレンを連れて行った先は、やっぱりあの花畑だった。
「(……ごめん。あおい)」
本当にオレは、今から最低なことをする。
でも、それであおいが助かるのなら。こんなの、どうってことないから。
『……また来たよ? ルニちゃん』
その声が聞こえた瞬間イヤホンをぶち抜き、スピーカーと録音ボタンを押して。みんなに静かに聞くよう、口の前に一本指を立てた。
それからゆっくりあいつは自分のことを話してくれた。
自分が生まれ、育ち、捨てられ、拾われ、大きくなって、引き取られ、オレらに会い、そして、今までしてきたこと全て。
でも、話し出す前に……。
「(殺してくれって……)」
ちらり。思い当たる人を見たら、苦笑いしてた。
「……するつもりなんかないよ、最初から。だって君が何とかしてくれるって思ってたし」
「なんでそんなことになってるんですか」
「『願い』をね、叶える代わりに。卒業見込み証明書と、何かあった時は自分を迷わず殺してくれと。……じゃないと、もっと犠牲者が出るからって」
「はあ。……あのばか」
そうなる前に相談しろって。……嫌われたくないからって、自分が消えたら元も子もないでしょ。
もう一つのスマホで、レンに連絡を取る。多分さっきの会話からして、あいつより離れたところにいるはずだから。
『……もし。もし……』
「あ。生きてる? 言ったじゃん体力つけなって」
『……なんで。知って……』
「まあそれはいいんだけど。……テレビカメラ的なやつ持ってる? それであいつ映してよ」
『……ちょ。……待て……』
少ししたら大画面に、朝日とともにあの花畑に座り込んでいる、小さいけれどあいつの姿が映った。
――……けど。
「……あれ? レン? レンー?」
『……ッ。はあっ……』
と思ったら、すぐ切れた。
いやまあ、声は聞こえてるからみんなはそっちに集中してるし、画面はもはやいらなかったかも知れないんだけど。
「レンちゃん? 大丈夫ー?」
『……………………』
「あれ。レンー? もう。そうなるから体力つけろって言ったのにー」
『……ああ。だいじょうぶ、だ』
「あ。ほんと? よかったー」
『はあ。……くじょう』
「ん? 何?」
『せいこうは、したのか』
「ん? ああうん。あいつ今、そこで話してるから。その声拾って、みんなにも今聞いてもらってる」
『……はあ。どうやって……』
「……ま、もういっか。言っても。あいつにも内緒で、盗聴器みたいなの着けさせてるんだよ。だから、それをオレのスマホのアプリが拾ってる。製作は海棠でーす」
『……まあ、だろうな』
「海棠ってすごいよ。希望のもの言ったらなんでも作ってくれるからね。しかも超特急で」
『……そうか』
「あれだよレン。お願いしてみなよ。体力つけたいですって」
『ああ。お願いしたいから、理事長に替わってくれ』
「え? なんで? 言ってあげるよそれくらい」
『取り敢えず、そんな恐ろしいものを作ってることに関しての文句をオレから直接言いたいから替われ。そしてお前も聞いてやれ』
「あ。はい……」
なんだかいつにも増してレンが強気だ。それはそれでムカつくな。……よし。課題してもらう量を増やそう。
「理事長。レンから」
「え? ぼくに?」
「うん。なんか文句があるんだって」
「え。……な、なんだろう」
ビクビクしながら、理事長はスマホを受け取って部屋を出た。ま、理事長もオレも聞かなくていいんだけど。
「(でも、レンがそう言うから……)」
オレも、あいつの話を聞いてあげた。……だって今、あいつもオレに言ってるんだろうから。



