『い、いえ。……ちょうど起きようと思ってたので』

「え? こんな時間に?」


 モミジから聞いたんだろう。もう、時間が逆転してしまったことを。


『ち、ちょっと今からオムライスを……』

「……それこそこんな時間に?」

『ははは。で、ですよねえ……』


 それはよくわかんないけど。……声、元気そう。


「……やっと、声が聞けた」


 いつ振りだろう。言っても一週間ちょっとか。
 二週間経ってないのに、もうずっと聞いてないみたいだ。……あ。モミジの声は聞いたけどね。やっぱりちょっと違うんだよ。

 安堵の気持ちが大きすぎて、息が多めの声が出る。


『……怪盗。さん……っ』

「……はい。なんですか。あおいさん」


 切なげだけど、でも前とどこか違う気がした。

 元気にしていたか、と聞かれた。……そんなの、元気じゃないに決まってる。
 今、こうやってやっと、ちゃんと息ができてる。心臓が、動いてる気がする。それだけ、オレにとってあおいは、大切なんだ。いること自体が。存在が。その全てが。

 ほんと、無理しすぎだ。寝てもない。ご飯も食べてない。
 それよりも、……いろいろ抱え込みすぎ。でも、今しかないよ。吐き出して?

 そう言ったら、『……話。聞いてくれますか?』と、小さな声でそう言うから……。


「……はい。もちろんですよ」


 会話の録音ボタンを押して、話を促した。



 変われたんだと。人を好きになったんだと。大切な人がいっぱいできたんだと。その人たちを守ってあげたいんだと。

 運命は、……変わってないけど信じてると。道も、……最悪な方向に変わったけど、それでも信じてると。考えも、……ちょっとは変われたんだと。

 たくさんたくさん、お礼が言いたいんだと。信じて待つのがつらいと。自分は突っ走ってしまうからと。待ってるのは性に合わないと。……待ってるだけが、怖いんだと。

 それでも、運命が変わるのが楽しみなんだと。……そう言うあおいに、言ってあげた。


「私が、必ず変えます。何もかも、全て」


 全部だ。本当の本当に、全部だよ?
 全部、変えてあげる。全部全部、助けてあげる。

 それもこれも全部、……あんたのために。



「……あおいさん」

『それから…………あ! やっぱり一番はモエモエ事件』


 ……うん。オレもね、そりゃこの目で見てみたかったけどね?


「あおいさん」


 それでも、どうしてあんたは話をしてくれないんだ。
 もうダメなのかと思った。この『オレ』でさえも。

 ……でも、聞き間違いかと思ったけど。


『……声に、出します』


 確かに今。……そう言った、よね……?


『だから、ちゃんと声には出します。……わたしの今の気持ち、全部』


 そう言われてほっとしたけど、やっぱり“あれ”を使わないといけないんだなって思った。
 どうやら、『人ではない人』に話を聞いてもらいに行くらしい。


「(……行くのかな。あそこに)」


 ……吐いておいで。思い切り。ちゃんと聞いてあげるから。