オレは大部屋を出て、自分の部屋まで戻りながら電話を取る。


「もしもし? アイから聞いたよ」

『ヒナタ~……。葵、多分言うとは思うけど……』

「流石にここまで来て言わなかったら友達解消するわ」

『それだけはやめてあげて……!』

「ま、なんとかするよ。任せて」

『え? どうするの?』

「……まあ、変態仮面にでもなろうかなと」

『え? どういうこと?』

「………………」

『……え』

「ま、そういうこと」

『ええ!? ……うそ。ちょ、ヒナタ……!?』

「すみませんね、リアル変態仮面で」

『いやいや。こちらこそすみません』

「そういうことだから。内緒。モミジだけね?」

『ははっ。……うん。そっかそっか~』

「……モミジ。手紙渡したよ」

『え?! 早ーい! すごいねー! もう目星がついてたの?』

「そうだね」

『そっか。……うん。そっか……』

「……本当に、会わなくていいの?」

『え? うん! ヒナタには会いたいけど!』

「会場で見つけてよ」

『はいは~い』

「ねえモミジ。……これで、よかったのかな」

『ヒナタ……』

「全員、救えないじゃん。……モミジ。助けてあげられない」

『ヒナタ』

「……でも、モミジがそう言うから」

『うんっ。……わたしね? すっごい幸せだったの』

「うん」

『前も言ったっけ? 死んでもこうしていろんな人に会えて、最高の人生ならぬ最高の霊生(、、)!』

「うん」

『だからね? 絶対に幸せになってね!』

「うん」

『絶対だよ? 絶対! でも、絶対になるよ!』

「はは。……うん。そっか」

『ほんとほんと! 絶対なる! ならないといけないよ!』

「うん。……ありがとう」

『……ありがとうは、こっちの方』

「……もみじ?」

『そして、……ごめんなさい』

「何言ってるの。謝ることないよ」

『あるから言ってるの。……ごめんね?』

「……うん。いいよ?」

『はは! ……うんっ。ありがとう』

「……あいつとも話した?」

『うん! 続行中!』

「え。すごいね」

『うん。いろいろ和解できたと思う。葵、やさしいからさ』

「……そうだね。ほんと、そうだよね」

『うん。……それじゃあ、そろそろ葵を起こさないと』

「……そっか」

『頑張ってね! 変態仮面!』

「はいはい。わかったよ」

『……さようなら。ヒナタ』

「……うん。さよなら。モミジ」


 ――もう、……『またね』は言えないね。

 オレは切らなかった。しばらくしてから、『……ッ。ばいばい!』って声が聞こえて、切れた。



「……また、会いに行くね」


 時刻はもうすぐ2時。自分の部屋に帰ってきたオレは、赤色の蝶ネクタイを準備する。


「……電話しろって、言ったのに」


 自分も口ではするって言ってたけど、あいつは一度も『オレ』に電話をしてくることはなかった。


「……いいじゃん? モーニングコールってやつってことで」


 首元にそれを当て、いつもモミジから掛かってくる方じゃない番号で、あいつに電話を掛けた。

 ……これが最後。もう、……本当の。最後の最後。


「(最後までオレは、偽ってきたな……)」


 これでいい。これでいいんだ。
 最後くらいとか。そんなのいらないから。

 だってオレは、あいつに初めて会った時から偽ってたんだから。


『もっ。……もし、もし……?』

「あ。……もしかして寝ておられましたか?」


 でもそれも。本当にもう、…………最後だ。