今みんなの中では、道明寺と聞くだけで嫌な顔をするはずだ。でも、オレが先に話しを入れたからそうでもないか。カエデさんもカナタさんも、話をしてくれたし。どちらかというと、あいつと名前が同じだから驚いているみたいだ。
『父はとても勤勉で、そして堅実で。常に仕事に向き合い、そして家族を何よりも大切にしていた人でした』
祖父からの仕事引き継ぎから始まり、初めは苦労していたけれど、傾きながらもなんとか堪え、仕事に明け暮れていた。アズサさんが体調不良を隠し、道明寺から出ていっても尚、仕事に明け暮れ、そして自分のことを大切に育ててくれていた。
『そんな父に、秘書の乾さんが縁談の話を持ちかけました』
相手はもちろん白木院エリカ。父の負担が軽くなるならと、自分は父の背中を押してあげたんだと、そう話をした。
『……それからです。何もかもが壊れていったのは』
祖父の急死。エリカの変貌。ミクリも、アザミにヤケに構うようになり、アザミは壊れていった。
『……壊れた父が、叫びました。『いいものを見つけた』と』
それが何なのか。今まで話を聞いてたみんなならわかるだろう。
『よく似ていたんです。……あおいさんと、母のアズサが』
そうして見せてくれたのは、あのペンダント。よく似ているから、アザミもあいつを見て妻の名を呼んでいたと、そう言っていた。
アズサさんは、自分の名字は絶対に家族の自分たちでさえ、教えてくれることはなかった。でも、ペンダントに書かれていたのは【Azusa Mochiduki】の文字。
『コズエさんが、あおいさんから母方の名字を聞いていたので、もしかして血縁者ではないのかと。そこから彼女の名字がわかるきっかけになりました』
それから、アザミとあいつを人質に取られたアイが、カオルとレンとともに、あいつへ追い込むようなことをしていたと話した。
『今回、自分が消えるかも知れないと。あおいさんに思わせることで、彼女自身にもう一度過去を振り返ってもらおうと思ったんです』
無理をすれば一日の時間は短くなるけれど、あいつ自身が消えるのはモミジが言った通りだ。それを知らないあいつにとっては、追い込みをかけられることで時間が短くなり、危機的状況になる。
それを利用して今までのことを話そうと思ってもらったんだと、……どうしてかアイが話してくれた。
『でもね九条くん。はなさんから聞いたんだけど微妙らしい』
「え。……はあ。どんだけ頑固なの」
『もう一押しってとこらしいよ? その一押しをどうしようかって考えてたんだ。また頑張ってスノードロップ探してこようかな……』
「……わかった。まあなんとかするよ」
レンに、あいつのスマホの充電をしておけと。取り敢えず連絡を入れておいた。
『皆さん宛てに、あおいさんから招待状は届いたのかな?』
「うん。流石に徳島までは取りに行けなかったけどね」
ちゃんと、新歓出発日の8日。オレらの写真がいっぱい入った【招待状】が、ちゃんと家に届いていた。
そして、そのからくりにもちゃんとオレは気が付いて、みんなとここ数日手紙を太陽の光に当てていた。だから、ちゃんとみんな“招待”のことも、そして『助けて欲しい』というメッセージも、ちゃんと見た。
『きっと、こうやって話を聞いても信じられないことも多いかと思います。俺自身、こんなことに巻き込まれていても、助けを求めたって、誰も信じてくれないだろうって。……そう思っていましたから』
それでも、カオルやレンとともに、必死で支え合ってここまで来たこと。それからコズエ先生が助けに来てくれたこと。オレや理事長、モミジだって味方になったこと。
それが、すごく心強いんだと。そう、泣き出しそうになりながら話してくれた。
『……今日、会場で皆さんに会えるのを、楽しみにしていますっ』
アイはそう言って、画面から消えていった。
その時ちょうど、久し振りに電話が掛かってきた。まあ、今まではスマホの電源切らしておくように言ったからね。……これでもう、話せるのは最後かな。



