すべてはあの花のために➓


「あー……ユズ? ちょっと黙っといてくださいねー」

「……執事だ。かなくんかなくん! お父さん執事してる!」

「え? あー。……あはは。そ、そうだね……」

「えーっと。取り敢えず、五十嵐さんとマサキさん、あとカナデくんは、あとでちょっと。…………話、あるんで」

「……ね、ねえマサキ。あの極悪面、俺らよりも向いてそうじゃない?」

「せやけど紫苑さん? ぶっ飛ばされる覚悟しとかな……」


 バレてしまったのならしょうがない精神で、カエデさんがユズに“よろしくしてくれちゃった人”に、ガンを飛ばしてた。
 カナも、流石にこんな近くに父がいるとも知らず、というかめっちゃ関わってたから、今更どうしたらいいのかわからないのか顔が引き攣ってる。


「はあ。……私からは、友人である乾ミクリの話を少し」


 カエデさんは、ミクリの人となりを話してくれた。
 そして、ちょうどアズサさんが亡くなった頃、ある政治家と親しくなったと話したきり、連絡がつかなくなったことを話してくれた。


「……ミクは、友人思いでやさしい奴です。私は話を聞いて、薬のせいなんだろうと思いました」


 そんなことをするような奴ではないと、カエデさんがミクリを庇おうとするのをオレが止めた。


「すみません。カエデさんの気持ちもわかります。でもそれを押しつけちゃいけない」

「……そうだよな。まあ、したことには変わりないからな」


 そう言ってカエデさんは「すみません。私情が入りました」と、話を終えた。



「(……視線が痛え……)」


 シランさんのそばに立ったカエデさんはというと、みんなから完全に見られてた。
 まあ笑うことはしてないけど、『なんで言わなかったんだ!』……ぐらいだろうな、多分。


「大丈夫だよかなくん! あたしがかなくんを守るからね!」

「あはは。それは心強いよ~……」

「ユズちゃん俺らも!」

「頼むわ~……」

「気が向いたら!」


 ユズも、シオンさんたちとはもうしっかり話はしてるから、そんな楽しげな会話が聞こえてきそうなやりとりをしていた。
 ……マサキさん、手紙読んだのかな。なんて書いてあったのかは知らないけど。でも、元気そうでよかった。


「……それじゃあ次に、この人から」


 今日は彼も忙しいだろうけど、それでもきちんと話がしたいと言っていた。本を正せば、自分たちが悪いからと。


『皆様初めまして。朝日向彼方と申します』


 日本業界のトップが何故いきなり出てくるのかと、みんなして驚いていた。


『すみません。短い時間なのですが、少し聞いていただきたい話が御座います』


 エリカ、もとい白木院エリカを捨てたのは自分だと、カナタさんは話し始めた。


『私には、愛した女性がおりました。……もう、その女性しか私は愛することができなかった』


 だから、気持ちが傾くことがない自分のことなど忘れ、エリカにはもっと違う人と好き合って欲しいと。そういう気持ちを込めて、朝日向から出て行かせたのだと、そう話した。


『エリカさんがこうも壊れてしまったのには、私が原因と言っても過言ではありません。きちんとお話をし直させてもらおうと、そう思っています』


 そしてカナタさんは一旦オレの方を見る。


「(……はい。どうぞ。思う存分話してください?)」


 小さく笑って合図すると、嬉しそうに破顔した。


『それからこの度、私は結婚式の方へと赴くことができません』


 それは、自分の愛した女性を助けに行くからだと、そう話をした。前以てモミジが望月について話をしていたから、みんなも驚いていたけど、話を聞いていた。


『私には、彼女しかいないので。彼女と……娘と一緒に。もう一度、私はやり直したいんです』

「あ。カナタさん時間切れ」

『ええ!? ひなたくん!? どういうこと……!?』

「次が来たから。それじゃあ、頑張ってくださいねー」

『ええ!? 大事なこと言えてない!! 言えてないよお……!!』

「大丈夫大丈夫。あなたがあいつを捨てたことに理由があることくらいは、オレがちゃちゃっと言っておきますから」

『ええ……!? ダメだって! そういうのはちゃんと本人が言わないと……!』

「大丈夫大丈夫。ちゃんと本人が言うから」

『え? どういうこと?』

「はい。それじゃあさよなら~」

『ええ!? ひなたく――』


 ま、若干教えてあげたけどね。