すべてはあの花のために➓


「……ひなちゃん」

「えっ? ……かあさん?」


 ぐっと引き寄せられたかと思ったら、抱き締められてしまった。


「日向。食べなさい」

「……とうさん……」

「お前、食べてもないし寝てもない。それじゃあ当日ぶっ倒れるぞ」

「……つばさ……」


 だって。……食べられないんだ。眠れないんだ。


「せっかくのイケメンさんが台無しだぞ?」

「……母さん」

「お前は、いろいろ抱え込みすぎだ」

「そんなことないよ。父さんに比べたら」

「あるから言ってるんだ。……日向、頼むから何か入れろ」

「……ダメなんだ。どうしても」

「日向……?」

「……だめなんだっ」

「ひなちゃん……」

「……。ごめ。……っ。……たぶん。何もかも、終わったら食えるから……」

「……無理だけはしないように」


 そう言って、父さんは明日も朝は仕事だから、部屋へ戻っていった。


「……ひなちゃん?」

「……。なに……?」


 おでこをこつんと合わせて、母さんがゆっくり話し出す。


「ひなちゃんがやってること、お母さんは何も言わないわ?」

「……。うん」

「でもね? どうしてひなちゃんはしんどそうなのかしらね」

「………………」

「わからないとでも思った? きっと、わたしだけじゃなくて、みんな思ってるわ? もちろんつばちゃんも」

「……それは心外」

「どういう意味だよ」

「あおいちゃんを助けてあげたいから、ずっと頑張ってきたのよね」

「……。かあさん……?」


 その、『ずっと』は。……一体、いつからのことを言ってるのだろう。


「あおいちゃんを助けるためにいろいろ頑張ったんでしょう? よしよし。よく頑張ったね。でも、まだ何か。心残りみたいなものがあるのかな?」

「………………」

「そうでしょう。お母さんだもん。わかっちゃうんだから~」

「はは。……そっか。わかっちゃったかあ」

「日向……」

「どうしたの? あおいちゃん、まだ助けられない?」

「ううん。……ぶっちゃけると、父さんはあいつのこと、助けないんじゃないかなって。ちょっと疑ってたんだ」

「とうせいさん? なんで?」

「……父さんが一番、ハルナの事件のこと気にしてたから」

「わたしも気にしてたわ?」

「うん。まあそうなんだけど。一回キレたら収拾つかないし」

「でも、とうせいさん、言ってたわ? 早くみんなで。あおいちゃんも一緒にはるちゃんに会いに行こうって」

「……。うん。そうだね」


 ぽんぽんと頭を撫で、母さんはスキップしながら父さんの部屋へと向かっていった。
 ……あれ? もう薬してないよね。まあ母さん元からかわいいけどさ……。