――――でも。
『九条ハルナさんは。……葵と。仲良くなってしまっただけなのに。家に。目をつけられてしまって……』
そこだけ。……本当にそこだけ。モミジには嘘を言ってもらった。じゃないとオレが、昔からあいつを知っていることになるから。
『ヒナタをハルナさんだと勘違いした家は、ヒナタを狙っていました。……でも。それを、ハルナさんが庇った』
父さんの肩が、小さく震えていた。みんな俯いてて、どんな顔をしてるのかわからない。
『……。仲の良かったハルナさんの訃報を聞き、……葵は。心を閉ざしてしまいました』
だから、中学での編入はできなかったのだと話し、もう誰も傷つけたくなかったあいつがモミジになりきり、最後の提案をしたと。
『……。その。最後の提案に乗じ。コズエ先生は犠牲者を装って。……道明寺へと。潜入しました』
そして今、家から命令されているのは、海棠を使って薬の運搬をすること。モミジがしてるのは、その経路を考えること。あいつがするのは、Sクラスでの卒業と同時に得られる海棠の援助を得ること。
『……。もう。葵が。皆さんのお礼を受け取れない理由。わかっていただけたんじゃないかと。思います……』
ただ間違って欲しくないのは、あいつ自身は、誰がどこの家の子どもなのかと、はっきり知らなかったということ。提案を要求される度に見せられていたのは、小さな頃の写真ばかりだったから。
『……。桜への編入は。……全生徒を人質に取りました』
だから海棠は、手も足も出せなかった。何もすることができなかった。
でも、中学の時から編入すること自体はコズエ先生から聞いていたから、できる範囲でその犠牲者に関して調べたり、あいつの名前についても調べようとしていた。
「オレは、理事長が調べたデータを預かったから、皆さんの連絡先を知っていたんです」
じゃないと普通はわからない。……ま、そうしてわかる海棠は怖いけど。
『葵は、迷惑を掛けてしまう理事長に、話したくないものもきちんとすべて話しました。……そして理事長は、葵が高2になった時。【生徒会】という括りを作り。葵に。……償う機会を設けた』
……そう。それが――――願い。
あいつの気が、少しでも楽になるように。そして、つらい思いばかりをしてきたあいつに、安らぎと笑顔が増える場を与えるために……。
『覚えていますか……? 葵が。仮面を着けていたことを……』
それは、人質に取られている生徒たちを守るために。……自分と仲良くなってしまっては、またハルナのようになってしまうからと。
『自分が傷つけたのにもかかわらず。自分なんかと友達でいてくれると。……そう言ってくれたみんなの存在が。葵にとって。どれだけ大切な存在だったか』
もう友達など、……仲良くなどなれる人などできないと思っていた。
でも、あまりにもみんなが。生徒会という存在があまりにもあたたかくて。本当の家族のようで。……突き放そうと思っても。できなかった。
『だから葵は。怖いんです。……そんな。大好きな家族に、実は。そんなことをしていたと言うことが。……っ。嫌われてしまうと。そう思っているから……』
だから、みんなには絶対に話せなかった。……でも、きちんとそのことを知ってもらわないと、あいつを助けることなんかできない。
『きっともう。ここまで話したら皆さん。葵をどうやったら助けられるか。……わかる。かな。ヒナタ……』
「うん。……よく頑張ったね。お疲れ様」
あいつを助けるには。……本当に助けるためには、名前を呼ぶだけじゃなく、今までしてきたことに関して犠牲者から直接声を聞くこと。
別に、許さないならそれでいいと思う。キツいと思うけどね、あいつにとっては。でも、思ったことをぶつけられる方がいい。それだとしても、あいつ自身を嫌うことなんてない。
「(……だって、すべて故意でやってるわけじゃないんだから)」
そこまでちゃんとわからない人たちじゃない。あいつが悪くないってことくらいは、ちゃんとわかる。
「(でも、その標的になるのは――)」
一番キツいと思う。それでもちゃんと、頑張って話すしかないんだ。
でも、大丈夫だよ。ここにいる人たちは、きっとわかってくれるから。



