すべてはあの花のために➓


「にしても難しすぎやしませんか?」

「そうなの。でもこれがあなたたちの手元へ行く頃には、恐らくだけど難易度は低くなってると思うわ」

「それは、先生が低くしろって言ったんですか?」

「いいえ? 難しくさせてるように見せかけて、単純なのを作らせたのよ」

「あおいさん……」

「それはなんというか……」

「コズエさんが操ってますねえ~」

「でも非常に残念ながら。パズルとか暗号とか、そういう類いのもの、みんなめちゃくちゃダメなんですよね……」

「「「「え」」」」

「あー困った。でも、まあわかる、かな。簡単なんでしょ? ……いいや、昔から知ってるオレが言うんだ。みんな絶対わからない。自信がある」

「いやいや……」

「それもそれで……」

「どうなんだ……」

「でも、あいつが知って欲しくはないけどわかって欲しいなら。きっとみんなは諦めない」

「そうね。私もそう思うわ」


 きっとキサだ。あのあとの録音で、キサが言ってた。簡単に言えないなら、難しく言っちゃえばいいって。


「(さっすがキサ。いい仕事してますね~)」


 これがわかればきっと、アキくんを好きな理由だって自ずと見えてくる。


「それで? コズエさん。お名前と出身地、聞けましたあ?」

「ええ。もちろん」


 先生は一度立ち上がり、地図を持って来て赤ペンで〇印を付けながら教えてくれた。


「母親の名前は『望月 来美』さん。母親の出身地は京都南部。大阪に近いみたいね」

「……え」

「それから、父親の方は茨城。彼の方も南部みたいで隣の家は千葉だったらしいわ。名前は『彼方』さんと言うそうよ」

「そんなに話してくれたんですねえ」

「結構絞れるかもしれないな」


 そう話しているけれど一人、目を見開いたまま固まっている。


「……アイ。どうしたの?」

「え。ぐ、偶然……?」

「どうかした? 何か、心当たりになるものでも知ってるの?」

「……っ。知ってるも、何も……」

「アイさん? どうされたんですう?」

「アイさん? 顔色が悪いですが……」

「……そりゃ。悪くも、なるよ」


 アイはパチンと頬を叩いたあと、首の裏をもぞもぞし始めた。


「アイ。どうしたの」

「あおいさんがうちに来た時、父さんがいつも、あおいさんの写真を見ながら呟いてたんだ」

「……どういうことかしら」

「俺も、似てる似てるとは思ってたんだけど……」

「アイさん? 詳しくお願いしますう」

「……うん。じゃあこれを見て。何かの手がかりになるかもしれないけど、もしかしたら本当に偶然なだけかもしれないから、これに頼りっぱなしはやめてね」

「……これ、は……」


 そう言って、アイが服の中から出したのはロケットペンダント。鍵の形をしたそれの中に入っていた写真に、……みんな息を呑んだ。



「……これは、俺の母さん。『道明寺 梓』(どうみょうじ あずさ)。旧姓は、……『望月』だよ」