――――9日、4時。
『皆様すみません。今日は時間を遅らせてしまって』
どうやら、完全にモミジとあいつの時間が逆転したらしい。だから、2~4時はしっかり寝させてやりたいということで、今日は少し遅らせた。
『コズエ先生からお話があったと思います。薬の話です』
今日は、キツいと思う。そして、今日が――……分かれ目だ。
『家の命令で、薬を服用していても陰性になるよう。反応をしないように開発したのは、紛れもなくわたしです』
事の発端は、アキくんを好いてしまった自分にあると話をし始めた。
『……葵に愛を教えたかった。家族との思い出のせいで、葵は人を愛することを怖がっていました』
だいぶ荒療治だけれど、自分が好きになれるような人なら、きっとあいつももしかしたら好きという感情があたたかいものだとわかるかも知れない。
先に形から入ったとしても、きっと向こうもあいつのことを好いてくれるんじゃないか。そして皇なら、あいつの名字も探してくれるんじゃないか。
『正直焦っていました。このまま葵が自分の名前を取り戻せないままでは、わたしが体を乗っ取ってしまうと。そして葵は、愛を怖がったままだと』
だから、アキくんとの婚姻を取り付けようとした。でもそこで初めて、自分が道明寺へとやって本当の理由を知ることとなる。
『命令に背けば、葵を酷い目に遭わせると脅されました。そして、……葵が大好きな花咲家の二人にも』
どうして頭がいいくせに、こういう嘘に気が付くことができなかったのか、すごく後悔したと。でも、自分にはどうすることもできなかった。家から出される命令に、ただただ従うしか、人質を守る方法などなかった。
『…………っ』
「(モミジ……)」
信じて。ちゃんと話してるから。大丈夫だから。
『……。きっと。もう、勘付かれてる方も。おられると。思います』
そしてゆっくり。モミジは、一生懸命に言葉を紡いだ。
『……。初めは。……五十嵐』
家から、組を内側から壊すような案を教えてくれと相談されたこと。
『……。道明寺アザミは。……警察のようなことをしているんだと。そう言っていました』
組を悪く言い、提案を促した。
『……。奥さんを。遠ざけるように提案したのは。……葵です』
空気が張り詰める。……でも、悪い空気ではなさそうだ。
それからモミジとあいつは、家に聞かれ、その提案をしていたことを話す。……それはまだ、幼い頃の話だ。
上手く利用されていると知ったのは、アキくんとの婚姻を提案した時のこと。
『……。そこで初めて、自分たちがしてしまったことを知りました』
そしてモミジはあいつを、ミズカさんとヒイノさんを人質に取られ。あいつには嫌われるようにしろと家から命令され、ただただそれに従うしかなかったと話した。
『それから。です。……薬の開発をさせられたり、また、違う家族を傷つけさせられた。……記憶に関する兵器を作ったのももちろん。……わたしの方です』
あいつは自分のことを、アキくんを手に入れるために、家の指示に従ってるんだと思ってると。……あいつの中でのモミジは、完全な悪者になってるんだと。そう話をした。
どの家では自分が。どの家ではあいつが。その記憶の兵器には、トリガーという欠陥を作っていたと。きちんとモミジは、嘘は言わなかった。



