すべてはあの花のために➓


「レン。どうにかして寝させないと」

『わかっているが、寝てくれないんだ』


 一旦部屋を出て、オレはレンと電話をした。


「やっぱり気絶させるのがいいって」

『……お前、それするの嫌だろう』

「オレはね? 人がするのは何とも思わない」

『いい性格してるよな』


 でも、このままじゃ本当に不味い。順番が狂い出している。


「窮極技をレンに伝授してあげる」

『……な、なんだ』

「これは、できることなら使いたくない。というか使って欲しくない。というか使ったらぶっ殺す」

『だったら使わないぞ……』

「だから、窮極って言ったじゃん。本当に寝てくれなかったらの話だって」

『はあ。……まあ、聞くだけ聞いてや』

「襲って」

『……もう一回頼む』

「だから、あいつを襲ってって」

『ふざけてるのか!? ふざけてるんだろ? そうなんだろ? そうだって言ってくれ!』

「マジマジ。大マジ。本気だって」

『……。オレは、できない』

「うっそー。ほっぺにチューできるくせに」

『……!? なんで知って……』

「え。クリパの時してたじゃん。控え室まで送ってくれた時」

『見られていたのか……』

「ま、そういうことだから頼むね。そうしたらあいつ、力全然入んなくなるから」

『……? なんで知ってるんだ?』

「もう一人から聞いた(大嘘だけど)」

『そ、そうなのか。……でも、やったら殺されるからしない』

「殺さないよ(これも大嘘だけど)」

『窮極だからな。……どうしようもなかったらそうする』

「そうして(やっぱりしたらマジ殺すけどね)」

『ああ。それじゃあな』


 さっさと寝ろよ。頼むから。そして……余計なこと言ったわ、ごめん。



「ヒナタ。お前寝てねえだろ」

「ん? 寝てるよ?」


 窓の外の月を見てたらチカに声を掛けられた。


「あ。フジばあ、桜餅どうせ全部食べちゃったんでしょ」

「早よ食べた方が美味しいからなあ」

「は? ……おいばばあ、また食ったのかよ」

「でもフジばあのおかげでわかったようなものだよ。ほんとありがとね」

「……やっぱり、そうやったんか」

「は? ……なんだよ二人して」

「ね? 言ったでしょ? オレは世界を救うんだって」

「……ほんま、ようやるわあ」

「え。……何二人とも。無視?」

「あ。フジばあ、ヒイノさんに会った? 生徒さんなんでしょ?」

「ちょっと前になあ。アオイっていう名前に覚えがあった思うたら、なんや花咲さんとこのやったんやな」

「勝手に話が進んでる……」

「でも、やっぱり噂なんだね。フジばあが言ってたのとは若干違ったんだ」

「まあ、噂は噂や」

「……もしかして、もう一人のアオイのこと、なんか知ってたのかよ」

「あ。今日は頑張って会話に入ってきたね。泣かなかったんだ。偉い偉い」

「ほんまや。大きくなったなあ」

「おい。答えろばばあ」

「だってフジばあ」

「せやかて、ヒナタに言われな知らんかったわ。そがに怒りんさんな」

「……なんでヒナタは知ってんだよ」

「ん? あいつが先生に言ったんだって。自分の母親の名字と京都が地元だってこと。だから、京都にいたフジばあに話聞いただけ」

「ほんまにたまたまや。かっかしいな」

「……別にしてねえよ」

「してるよねーフジばあ?」

「そうやんなあ」

「……別に、悔しいとか思ってねえし」

「あ。思ってるんだってーフジばあ?」

「まだまだ子どもやなあ」

「違う。……悔しいけど、あいつを助けるのにヒナタがそこまでやってたのに気が付けなかった自分に、腹立つだけだ」


 そう言ってチカは部屋の中に戻っていってしまった。


「……チカって大人だよね、フジばあ」

「せやな。あんたもはよ、大人になりい」


 ぽんと頭に手を置かれて、フジばあも部屋に戻っていった。


「……オレの方が、子どもか……」


 チカに負けて悔しいとか思うけど。……でも、その通りだろうな。


「だって、あいつに関してだけは、我が儘多すぎるもんね」


 あいつも起きてるのなら、同じ月を見てるのかなと。真夜中に浮かぶ月を、……ただ眺めていた。