――――6日、夜中。
「それではまず、私の方から……」
そう言って理事長が話をしてくれる。道明寺にある、もう一つの噂。
「急激に成長した道明寺。その原因は、とある少女の存在なのではないかと。そう噂が広まっているのです」
急成長、立て直しだけなら、その少女は英雄なのだろう。しかし、道明寺へと薬の動きがある今、……本当の彼女は、道明寺を陥れる悪魔なのではないかと。
そして、……その少女こそ彼女なのではないか、と。
そのことについて今日もモミジに話をしてもらおうと思ったけど、画面に出てきたのはコズエ先生だった。
「(あんのばか……!)」
どうやらあいつは寝ていないみたいだ。コズエ先生が苦笑いしてる。
『すみません。今日ももう一人の葵ちゃんに話をしてもらおうと思ったんですけど、出てこられないようなので今日は私の方から』
先生が話してくれたのは、その噂に関してのことだ。
本当はモミジから話をしてもらいたかったけど、まあ先生からも少し話をしてもらえるか。
『私が何故、彼女に接触をしようとしたか。それは、その薬に関して深く関わっているという資料があったからです』
そのデータによると、薬の入手経路から開発、流出経路までの確保ばかりではなく、とある兵器の開発までも行っていたと。
コズエ先生の話はここまで。その兵器に心当たりがある人たちは、眉間に皺を寄せていた。
「ひーなクン」
「……アカネ?」
「あら。ちょっと顔色悪いんじゃない?」
「ナズナさん。……そんなことはないですけど、先日は本当にありがとうございました」
「ん? 母さん何かしてあげたの?」
「ん? ちょっとねえ、お手伝い?」
「アサジさんもチガヤさんも。……すみません、ご迷惑をお掛けして」
「ううん? 全然大丈夫なんだけど、……あおいさんが心配だなあ」
「でもあの強さ、どこかで見たことあるような構え。“沈丁花”のせいじゃったか」
「沈丁花?」
「あおいチャンを拾ってくれた、みずかサン? は、昔武道界を総なめした人で、通り名でそう呼ばれてたんだってー」
「へ、へえ……」
すごい人なんだろうなとは思っていたけど……ま、今は完全に尻に敷かれてるけどね。
「ひなクン」
「……何?」
いつになく真剣な眼差しで、アカネがオレの名前を呼ぶ。
「あおいチャン、助けてあげよう?」
「アカネ……」
「あのね? 聞かされることは信じられないことばっかりだし、あおいチャンがなんでおれらに言ってくれなかったのかもわかるんだ。だって、言ったって信じられないようなことばっかりだ。それに、……きっとあおいチャンにとっては嫌なことなんでしょ?」
「……まあ、言いたくないってことはそうだろうね」
「ひなクン、ずっと辛かったんじゃないの?」
「え? オレ?」
「だって、一人だけ知ってたでしょう? それで誰にも言えなくて、あおいチャンにだって言ってない。そんなことひなクンが知ってるって知ったら、今まで一緒にいなかっただろうし」
「………………」
「だからね? ひなクンもしんどかったね。おれも、ちゃんとあおいチャンのことわかってあげたいから、もう一人で抱えなくていいからね?」
「そこまで抱えてはいないけど。……ありがとう」
だって、今まで抱えていたのは、オレ自身のことだから。
それがなくなった今、……あいつが信じてくれてると思う今は、しんどくないよ。ありがとう、……アカネ。



