「ひなく~ん」
「あ。ユズ」
「ヒナくん、さっきのもう一人のアオイちゃんの話は本当なの?」
「カナはどう思ったの?」
「……心当たりがあり過ぎて、こんなの有り得ないってわかってるのに、正直そうとしか考えられない」
「あたしは本当だと思うよ?」
「ユズちゃん?」
「体が冷たいのは知らないけど、でもあおいちゃんの目が赤くなってるのは見たことあるの」
「え。そうなの……?」
「うん。お泊まりした時にね。でも、さっきのあおいちゃんとの話と、録音で聞いたあおいちゃんの話、正直どっちかがおかしいよね」
「……多分だけど、おかしいって言うよりは、知らないんじゃない?」
「知らない? どういうことかなくん」
「アオイちゃんは、もう一人に『そういうこと』があったってこと。理由があったから、名前を取っちゃったってこと。それを、アオイちゃんはもしかしたら聞いてないんじゃないなかっと思って。もう一人の子から」
「う~ん。どうなんだろうね」
「確かにさっきの方は、あいつに本当のわけを話してないね」
「ヒナくん?」
「でも、どうして話さなかったのか。……ちゃんと理由があるんだ。だから、それもまたちゃんと話してもらうからさ? もうちょっと待っててね」
そう言って、オレは二人から離れていった。
……確かに、この話は信じるに信じられない話だろう。わかってる。でも、それを理解してもらわないと先へは進めないんだ。
「(……きっと、大丈夫だ)」
今は信じよう。こういう場を設けはしたものの、オレができるのはみんなのことを信じるだけだ。
「……ヒナくん、つらそうな顔してたね」
「……うん。そうだね」
「あ。ユズちゃん。メールでも言ったけど、チョコありがとう。美味しかったよ」
「ほんと? よかった!」
「……諦めたく、ないんだ」
「かなくん……」
「こんなこと、ユズちゃんに言うのは、どうかと思うんだけど」
「……ううん。教えて?」
「……本当に、好きなんだ。アオイちゃんのこと」
「うん。知ってる」
「それでもね。……なんで、かな……」
「ん?」
「……どうして俺は。ヒナくんの背中を押してあげたいとか。思っちゃうのかな」
「かなくん……」
「おかしいよね。……好きなのに。……好き、なのに……」
「……好きだから、じゃないかな」
「え?」
「きっとかなくんの好きは、神の領域に達したのだー!」
「……ぷっ。なに。それ……」
「だから、押し殺さなくてもいいし、かなくんの好きにしたらいいと思うよ?」
「……ゆず、ちゃん?」
「やっぱりあたしは、前に進めないみたいだから」
「……ユズちゃん」
「だからね? 前に進んじゃったかなくんが、ちょっと戻ってあたしの手を引っ張ってくれたら、嬉しかったりするんだー」
「……ありがと。そう言ってくれて」
「だから頑張って? あたしは、大好きなかなくんを、ずっと応援してるよ」
「……うん。頑張る」
後ろからそっと、自分の背中だけを追いかけてきてくれて、やさしく押してくれる彼女の方へ。ほんの少し、……振り向きそうな自分がいた。



