『でも、葵とは血が遠く繋がってはいたものの、そこの家の子どもではなかったのです』
でも、そう言霊で縛られた自分は、誰かに名字を呼んでもらわなければ、どんどんあいつの時間を奪ってしまうことになり、本当にあいつを飲み込んでしまう。
まだ、あいつの体に慣れていなかったのと、生前の記憶やあいつの記憶が怒濤のように襲いかかり、花咲家では暴れてしまったのだと。
『どうして葵が道明寺へと引き取られたのか。それはきっと葵が話したと思いますが、異常に頭がよかったからです。……ですが、葵よりほんの少し、わたしの方が優れているので』
それを知った道明寺は、頭が金になると考え、作為的にあいつを引き取った。
『そこでわたしは、道明寺葵として育てられてきました。そして、……皇アキラ? あなたの誕生日パーティーにもお邪魔しました』
そこで会ったのは自分なのだと、録音で聞いてはいたけど、本人から直接話を聞いてアキくんは言葉にならないみたいだ。
『あなたを本当に振り回してしまって、……謝っても謝りきれません』
生前の記憶。そこにいる男の子と少し重ねていたとこがあったと。そして、それは本当にアキくんへの恋に変わったと。
『生徒会の皆さん。葵と喧嘩をしてしまった時のこと、覚えていらっしゃいますか?』
あいつが言える範囲で話はしたものの、肝心の自分を隠していたから、あんな中途半端になったんだと話をした。
『アキラを好いていたのはわたしの方。……だから葵は、アキラ? あなたのことを友達として好きであり、あなたのことが好きなんだと、そう言ったんです』
「……桜李の家で、会ったのは……」
そう言うアキくんに、みんなが目を見開く。あの時起こったことを、アキくんが話してくれていたから。
『はい。……アキラ。わたしです。すみませんいろいろ』
「……修学旅行で、襲ってきたのは……」
『はい。わたしです。……すみませんがっついて』
「それが本当の話なら、全部辻褄が合ってしまうんだな」
『まだ、信じられませんか』
そう言ってモミジはスマホを触って、画面をこちら側へと見せてきた。
『葵がバレンタインの時に皆さんに渡したカード。覚えていらっしゃいますか?』
そこには、あいつからのヘルプが。そして、自分が二つの人格の持ち主だと言うことが書かれていたことを、モミジは話をした。
『……シント? いろいろ、本当にごめんなさい。そしてありがとう。ちゃんとこうして、元執事のあなたにお礼ができて、本当に嬉しいです』
「……いいよ。こっちこそ、勘違いしててごめんね」
そう返してくれたシントさんに、モミジは小さく笑った。
『ヒナタ。……あのね? 葵が、みんなに手紙を書いたんだ』
「え? なんでまた……」
『大事なことが書いてあるから、ちゃんと見て欲しい! きっと、みんなが新歓に行くと思ってる日に届くと思う!』
「……はあ。わかった。ありがとうアオイ」
『いえいえ。……きっと、信じられないと思います。でも、本当の話です。葵の会話で行動で、引っ掛かったことはないですか? たとえば……』
体が冷たくなったこと。そして倒れたこと。そしてこの、……赤い瞳。
『きっと、言葉の端々で皆さんが気づいてくれること。葵も待ってると思います』
そう言ってモミジは話を終えた。みんなは信じられないようで、その場からしばらく動けなかった。



