すべてはあの花のために➓


 ――――5日、夜中。


「今夜は先に、こちらを聞いて欲しいんです」


 そうして、次の人の話を聞く前にオレがみんなに聞かせたのは、前日にシランさんと話をしたあの会話。
 シランさんと話しているという形跡はない。というか、シランさんがあいつの話を聞いてる時に割り込んで入ったりしなかったから、ほんの少し編集するだけで済んだ。

 シランさんから軽く視線を感じたけど、オレは受け流すに徹した。

 みんなに聞いてもらった話。オレと話をしていた時のものと内容は似ているけど、シランさんとの会話で徹底的に違うものがある。それは……。


「……黒い感情……?」


 誰かがぼそりと、そう呟いた。『どういうことだ』とざわめいている。
 モミジとの契約の内容だったり、シランさんとの提携の内容まではまだ聞いてもらっていない。あいつ自身が、償いとしてシランさんに話したことを聞かせただけだ。


「(時間になったから、そろそろ連絡が来るかな……)」


 取り敢えずあいつも寝てくれてるみたいだから、この時間はモミジが出てきてくれるみたいだ。


「(……頑張って。モミジ)」


 今が、その時だ。
 大きな画面がパチッと点き、目を伏せている『あいつ』が、画面へと現れた。


 ❀ ❀ ❀


「次にカオル。それからレン。それからアオイでいこう」

「九条さあん。アイさんはいいんですかあ?」

「アイにももちろん話してもらうけど、アイもキツいよ? だって、みんなの話からしたら道明寺は完全に悪者になってるからね」

「でも、現にそう思われてもしょうがないことをしてるよ。だから、俺の言葉で動かせなかったらそれまでだ」

「……大丈夫。ちゃんとアイが思ってることを伝えてくれたらいいから」

「……うん。ありがと」


 まずは、どうして自分がこんなことに巻き込まれてしまったのかを話せばいい。二巡目に、してしまったことを話すようにしたらいい。


「アオイ。キツいと思うけど話せる? あいつのことじゃないよ。アオイ自身のことだ」

『……うん。嫌だけど、大丈夫だよ』


 かなりキツいだろう。でもモミジが話さないと、どうして道明寺があいつを求めていないのか、モミジが必要なのかはわからない。


「……覚えてる? シランさんに、償いとして話した時。あいつ結構自分のこと話したでしょ?」

『え? うん。そうだけど。……なんでヒナタが知ってるの?』

「あれね。録音してたんだよ」

『ええ!? それも!? どうやって!?』

「方法はいろいろあるよ? 聞いたらきっと、アオイはオレと一緒で人間不信になる」

『人じゃないけどねわたし』

「だから、その話を先にみんなに聞いてもらう。そこではオレらには話してくれなかったけど、黒い感情についてあいつは話してるから、まだいきなりじゃないし、入りやすいんじゃないかと思うからさ?」

『……うん。頑張るね! ありがとうヒナタ! 録音しててくれて!』

「それはお礼を言うとこじゃないと思うけどね」


 理事長からは、小さなため息が聞こえた気がした。でも、これはしょうがないことだし、してよかったと思ってるから。

 ……これで、いいんだ。