時刻は21時。
「……先生を味方に?」
集まってご飯を食べながら、あいつがここへ何しに来たのかを話してもらった。
「ええ。……やっぱり、ずっと溜めておくのはキツいらしいの」
「ああ、今シントさんが話せないからですねえ」
「だから今は、少しでいいから自分の苦しい気持ちを吐ける場所を探してるみたい」
「それで、コズエさんのところへあおいさんは来たと?」
「家の事情を知っているし、彼女の願いのことについても知ってるってことになってるから。事情を知ってる人の方が、少しでも多く吐けると判断したんでしょう」
「てことは、九条のやり方に対してもつらかったけれど、それよりもやっぱり、今置かれてる状況があおいさんにとっては苦痛だってことですね」
「……喧嘩してしまったみんなに、心配掛けたくないみたいだったわ。みんなの前でつらい顔なんてしたくないから、だから大人の私を頼ってきたんだと思うの」
「……っ、ばか」
限界なら。もう、言ってくれたらいのに。限界なら。……泣いてくれたらいいのに。
もう、本当に。オレらの前であいつは、自分のことを話さないのかもしれない。もう。オレの前ですら。……泣いてくれないのかもしれない。
「(はい。絶対に泣かす)」
変なスイッチが入った。とことんやってやる。
「あと、このカードで賭けをしたの」
そう言って渡されたのは、見てもよくわからないカードだった。
「自分のことを話せる範囲で詳しく書いたんだって。そう言ってたわ」
「はあ。これはこれは……」
「あおいさーん。難しいよー」
「お手上げですね」
カードをもらって、よく見た。初めはわからなかったけど……。
「先生。何を賭けたんですか?」
顔は上げずにそう尋ねた。
「もし私がわかったら、あなたの本当のご両親の名前と出身地を教えてと」
「「「「……!!」」」」
まさか、そこまでずばっといくとは思わなかった。
「初めは驚かれたわ。なんで知ってるのかって」
「なんて答えたんですか」
「え? ああ、やっぱりそうだったのねって。鎌を掛けた感じで言ったのよ。そして私は勝った」
「先生もわかったんですね」
「「「ええ!?」」」
「流石ね九条くん」
「……ま、いろんなの解いてきたんで」
そう思ったら、手間がない分これは簡単だった。
「何て書いてあったんだ?」
「端的に言えば、自分は二重人格だってこと。家が嫌だってこと」
「彼女はどうやら、それを知って欲しくないけど、わかっては欲しいみたいよ」
「というと、それが恐らく彼女があなた方に話せる限界、ということですねえ……」
「そうだろうね」
「でもそれだけだと、わかるかどうかも危ういし、肝心の消えてしまうことだって書かれてない」
「……でも、大前進だ」
「九条?」
嬉しかった。本当だ。だってアキくんの手紙では、わけがわからないように書かれてて、本当に理解不能だったけど。
「(……ちゃんとわかったら、あいつが二重人格で、しかも家で苦しんでるってことが伝わる)」
変わらないとって、きっと思ってくれたんだ。このままじゃダメなんだって。



