すべてはあの花のために➓


「シランさん。今回は急なお願いを聞いてくださってありがとうございます」

「いいんだよ。部屋は余るほどあるから、こんなにお客さんが来てくれてきっと部屋たちも嬉しいだろうし」

「どうせ日向くんでしょ。葵の荷物俺宛に送ればいいって言ったの」

「おお。流石皇次期当主兼元あいつの執事現あいつのストーカーさん」

「酷い扱いになってるんだけどっ?!」

「じゅぽ! ……シン兄。事実だ。しょうがない」

「アキくん。こんな遅くに飴舐めてたらあいつが泣くよ?」

「……。今日はこれだけにするもん……」

「……日向くん日向くん」

「……? なんですか? シランさん」


 くいくいっと、何故か服を引っ張られて部屋の角まで連れてこられる。


「俺も、録音したらよかったかも知れない」

「え……?」

「葵ちゃんが話してくれないから、日向くんは録音してみんなに聞かせてあげてるんでしょう?」

「……まあ、そうですね」

「君から情報をもらってから話をしたんだけど。……葵ちゃん、すごい罪意識を感じていたのか、俺には結構話してくれたんだよ」

「そうですね」

「そうなんだ。だからあの時俺が録音しておけば、葵ちゃんの言葉で結構な寮の自分の話をしてくれ…………え。今、何て言った?」

「大丈夫ですシランさん。その話、ちゃんとみんなに聞かせます」

「……君、は……」

「それはまた明日。ところでカエデさんは別室ですか?」

「ははっ。日向くんは知ってるんだね。そうなんだよ。まだ心が決まってないんだってー」

「……ったく。どっちみち当日で顔会わせるんだから言っちゃえばいいのに……」

「恥ずかしいんだって。……あれだったら行ってあげて? 突いて遊んできていいよ」

「そうですね。そうすることにします」


 それから、みんなで集まっている大会議室を出て、オレは別室へと足を運んだ。


「……なんでこんな暗い部屋にいるんですか。ちゃんと話聞いてました?」


 ここにも一応テレビ電話的な画面を置いてはいるが、ここの映像は向こう側には見えない。


「まだ会ってやらないんですか? いいじゃないですか。めっちゃ多分指差して笑いますよ」

「それが嫌だから出ねえんだって……」

「でも、結局顔会わせるようになるんですよ? 今のうちに会ってたらいいじゃないですか」

「……わかんねえようにしてくれや」

「そんな無茶な……」


 結婚式のことはまだ全体には言ってないけど、知ってる人はきっとみんなから聞いたんだと思う。


「奥さんはご存じなんでしょ? 執事をしてるってこと」

「そりゃな。でも、あいつにも指差されて笑われた。そして俺はかなり傷付いた」

「それで金稼いでるからいいじゃないですか。いいとこ住まわせてあげてるんでしょ?」

「でも柊の時は、秘書に近い仕事してたからな……」

「似たようなもんじゃないですか」

「あー……あれだ。仮面とか着けたらどうだ。フルフェイスで」

「あいつが誰かわかんないといけないでしょ」

「あ~……笑われる。絶対笑われる……」

「オレ思うんですけど、あいつにというより知らない人たちに指差されそうですけどね」

「あー……。いやだー……」


 ダメだこりゃ。ま、その日になったらがっつり仕事内容とか話せばいいと思うよ、うん。