オレ以外の人が録音したものは、本当に最後の最後。あいつが話さなかった時にしか使わない。オレが録音したものを聞き、その経験がある人たちは、一瞬オレの方を見る。
「(その節は、大変お世話になりました)」
目で取り敢えずお礼は言っておく。大丈夫だ。名前なんか出すつもりはないし、そもそも使うつもりはない。だって、絶対に言わせるんだから。
それから、あいつの話でも出てきた『拾ってくれた人』から少し、話をしてもらった。
「初めまして皆様。花咲緋衣乃と申します」
「初めまして。花咲瑞香と申します」
父さんが、ミズカさんを見た瞬間に飛びかかりそうになったけど、取り敢えずツバサと二人で一緒に抑え込む。
「とうせいさんステイ!」
「わ、若葉……」
まあ母さんが変なことを言ったから、なんだかやる気は殺がれたみたいだけど。
「先程聞いていただいた通り、オ……私は、舟から落ちるあおいを見つけ、大急ぎで助けに行きました」
「それからあおいちゃんの事情を聞き、助ける方法を探しながらあの子を大事に育てていきました」
それから、その助ける方法として、知り合いだった道明寺アザミに声を掛けた。しかし、道明寺にあいつを人質に取られ、他人と無理矢理体を重ねるようなことを強いられた。
その現場をどうやらあいつが見ていたらしく、本当両親のように仲違いに自分たちがなるのを恐れたあいつは、自らの意思で道明寺の手を取ったのだと。
そこまでを二人に話してもらった。オレのことは極力話さないようにしてもらっていたからだ。
恐らく、今オレらの口から話せるのはここまでだろう。ここにいる人たちはもどかしいと思うけど、こうするしか方法はないから、長期戦覚悟で頑張ってもらわないといけない。
遠方から来てる人は申し訳ないけど、ここへ泊まってもらうことになっている。近所の人たちは一旦家に帰っても大丈夫だけど、必ず『夜の2時まで』にはここに集まるように伝えた。
取り敢えずは一旦ここで終了させてもらって、みんなそれぞれ雑談をし始めた。
「久し振りねひなたくん」
「あ。……ツバキさん」
遠方から来てくれた三人は、お寺を親戚の人たちに任せてここまで来てくれた。
「キサには会ったんですか?」
「ううん。先に君に声を掛けに来たくてね」
「え? オレ?」
「ほうじゃ。元気しとったかの?」
「あ、はい。元気ですよ?」
「あのあとね、あやめちゃんから電話があって」
「熱が出てたんだってね。通りでなんだか様子がおかしいと思ったんだ」
「いろんなとこぶつけたからのお。大丈夫じゃったか?」
「え。ま、まあ、大丈夫ですけど……」
オレはあの時、そんなにおかしかったんだろうか。
「ひなたくんは、あたしたちが録音したものを聞いたのかしら」
「いえ。オレも聞いてません。本当に最後の最後まで取っておこうと思うので」
「こう言っちゃなんだけど……葵さん、泣き叫んでいるんだよ」
「え」
「せやからのお。……できれば、皆さんには聞かせんようにして差し上げたいんじゃ」
「カツラさん……」
きっと、余程聞いてて三人とも苦しかったんだろう。
「……お心遣い感謝します。使わないとお約束はできないかもしれませんが、オレも使おうとは思ってないので、そこは安心してください」
そう声を掛けたら、三人はほっと息をつく。……きっと、あいつのためでもあったんだろう。本当、あいつの味方はこんなにも多いのにね。



