「え? あいつが先生の家に?」


 バレンタイン前の週末に、どうやらあいつが先生のとこに行くらしい。日にちからして、お世話になったになった人にでもチョコをあげに行くのだろう。


『そうなの。でもね、私は『何かあったら』連絡しなさいって、そう言って連絡先を渡したのよ』

「………………」

『ねえ九条くん。彼女は相当堪えてるみたいよ』

「みたいですね」


 みんなを使って、怒らせて傷つけて。


『ねえ。あなたまた何かするんでしょう』

「……ま、そうですね」

『もうちょっと何か、別の方法はないの?』

「オレができることはこれくらいなんで」

『……九条くん知ってる?』

「何をですか」

『彼女を傷つけて、一番傷ついてるのは誰か』

「……オレだって言いたいんですか?」

『そうよ』

「はっ。そんなわけないでしょ。だってこれは、あいつ助けるために仕方なくしてるんですから」

『表向きはそうかもしれないわね』

「表向きも何もそうなんですって」

『そうやってあなた、いつまで自分のことを責めるの』

「オレがいつ自分を責めました?」

『昔の話が出る度よ』

「した覚えなんかありませんよ」

『……いい? 壊れる前に言いなさい。必ずよ。壊れるなら、あなたの代わりに私が仕事をするわ』

「……いいんですよ、先生」

『九条くん……』

「オレにやらせて欲しいんです。……お願いします」

『……無理だけは、しないようにね』

「大丈夫ですよ。あいついじめるごとに元気になるんで。それじゃあまた、その日の夜みんなで先生の家に行きますね」

『……ええ。ご飯作って待ってるわ』

「わーい。どもども。それじゃ」


 ――……無理、か。


「……そんなの、したことなんて一度もない」


 ただ普通に、一人でなんでもできるようになっただけ。


「……また、美味しいご飯食べられる」


 毎年毎年、この時期が来る度に思う。


「……今年こそは、死ぬかもしれないって」


 壊れる前に……? 代わってくれるって?


「……そんなの、とっくの昔に壊れてるよ」


 壊れてなかったら、あいつのことを傷つけずに済む方法が、オレにもできたかもしれない。でも、汚れまくったオレにできないよ。そんなこと。


「……ごめんっ。……全部。オレが悪いんだ……っ」


 今年もやってくる。自分を責め続ける日が――――。