と言っても、あいつの事情を知って、シントさんがわからなかったものを知るためにいろんなことをしていたとか。助けるために、唯一動けるオレがいろんな人を使ってたとか。その中に、実はみんなが入ってたってこととか。あいつが結婚式を挙げることになったのは、本を正せばオレが家にチクれって言ったからとか。助けるために、ここぞとばかりにあいつを追い込んだこととか。
そんな感じのことを話したんだけど……あ。盾なかった。理事長でいっか。
みんなから“なんで教えてくれなかったんだ”って殺気の視線が飛んできたけど。それだけなら、盾はなくてもよさそうだ。
「みんなは理事長と、あとシントさんから聞いたんじゃない? あいつのことが知りたいなら、たった一人であいつに踏み込んで聞けって」
「……え。まさかとは思うけど……」
「うんキサ。それを理事長に提案したのはオレ。あいつの事情を知って、これは絶対に他人から聞いちゃいけないようなことだって思ったんだ」
「だからあんたはそう言って、あっちゃんのことはあたしたち一人一人が知るように仕向けたってこと……?」
「あいつが抱えてる問題が、あまりにも大きすぎる。そして酷い。そんなものを他人の口から、他人の意見や考えを含んだ上であいつのことを知って、みんながあいつをどう思うか判断して欲しくなんてなかった。……だからね、オレは一人スタートラインが違うんだ。みんなとは」
「あいつが言ってた。何度も何度も。わたしのこと嫌いになるって。……それを聞いたら、オレらがあいつを嫌うようなほどの内容なのかよ」
「そうだよ。取りようによっては」
ハッキリとそう告げたら、みんなしてピシ……ッと固まる。
でも、一回シントさんから話を聞いてるから、それはすぐに戻った。……キクは、よくわかんない。そっぽを向いて、何を考えているのやら。
「……それが、アオイちゃんが叶えてくれた願いと関係がある……」
シントさんが言っていた。『願い』を叶えた根本が、あいつにとっては一番みんなに知られたくないことであり、日記に書かれていることだと。……みんな、頭だけはいいからな。何となくわかっちゃったかな。
「だから、ちゃんとあいつの口から自分自身のことを聞いて欲しかった。それをちゃんとわかった上で、みんながあいつを『助けたい』と思ってくれるかどうか。誰の意見も聞かずに」
「助けねえと思ってんのかよ」
「思ってないわけじゃない。シントさんも言ってたでしょ? 『あいつを殺したくなるだろう』って。そういうことだよ」
さてと。これ以上はオレが話すべきじゃないからね。あいつの話は“本人”からしてもらわないと。
「でもみんな知ってる? 5月10日が何の日か」
「……新歓、だな」
「アキくん。オレは、結婚式当日あいつ自身のことを全部知って、尚且つそれでも助けたいってみんなが思うのなら、そこに乗り込んでぶち壊したいって考えてる。キサの時とはちょっと違うけど」
「助けたい。葵の事情はまだ知らないからそう思っているけど、……でも、俺のこの気持ちは絶対に変わらない」
「……策はいろいろ考えてるんだよ。ね? 理事長」
そう言って、理事長へとオレは話を振った。
「うん。君たちは、5月1日から10日の間、休学という形にさせてもらったよ」
「え。勝手に何してるのみーくん」
「これはね、4月に入った時から先生たちには話してるんだ。治安維持の活動で、しばらく彼らは休むってね?」
「え? で、でも。治安維持って……」
「全く関係のないことを言ってるわけじゃない。……私は、嘘を言ってはいないよ?」
あいつを助けることと治安維持。一体何が関係があるのかと、みんなして首を傾げている。まあ、みんなの中では美化活動とかが主だから、多分それとは結びつかないんだろうけど……。
「……西と、何か関係があるの?」
「……まあ、なくはないね」
だって、そうしてしまったのはアイとカオルとレンだ。
「でも、なんでまたそんなことを。オレは何にも聞いてないですよーミノルさん」
「言ってないからね」
「なんでー?」
「だって、菊は紀紗ちゃんと杜真くんに話しちゃったでしょ? ほんと口軽いんだからもうー」
「いや、味方は多い方がいいかと思って」
「そうだけど、彼女が知られたくないようなことをほいほい言っていいとは限らないだろう?」
「……すんませーん」
「(ほんとに反省してんのか、こいつ……)」



