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 理事長室。ノックなんてもうしない。だって彼も、オレらが来るのを待ってるんだから。
 ……ガチャリと、大きくて重い扉を開ける。いつもは開けるのなんて嫌だった。ヤケに大きすぎるし、無駄な力使うし。

 でも今は、すごくこの扉が軽く感じる。


「(……ま、気の持ちようか)」


 だって今、この扉の先には、念願の時が待っているんだから。



「待ってたよー!! マ○カしよ」

「ふざけんなよ」


 思い切り踏み潰してやった。背中だったらまた『気持ちいい』とか言い出すから、今度は完全に頭を。


「ヒナタ!? やりたくなる気持ちもわかるけど流石にやり過ぎだ!!」

「あ。わかってくれるー? ほんとね、毎度毎度この調子だとさ、いつ鋭利なもの持って来とこうかなって思うよね」

「いや、それは思わねえ」

「あ。そう? 残念」


 でも、何となく今日もこんなことするんじゃないかなって思ってた。だって理事長は、そういう雰囲気を払拭しようとしてるから。だから、いつも助かってる。不本意だけど。


「痛たた……。流石に頭のツボは足じゃ押せないよ日向くん」

「押すつもりありませんからね」


 こんなやりとりをするんだ。何度も会っているということは、少なからずみんなには伝わったはずだ。


「さあみんな、座って。少し話をしよう」


 みんなは首を傾げながらもソファーに座り込んだ。


「ごめんミノルさん。遅れたー」

「ああ。菊もちょうど来てくれてよかった」


 大事な話をするというのに、時間にルーズなキクは取り敢えず睨んでおいた。理事長はキクも座ったのを確認したあと、ゆっくりと話をしてくれた――……。


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「理事長には今もやってもらってるんですけど、全校生徒、オレら、花咲の人たちを、抜けがないように守ってください」

『うん。もちろんだよ』


 どうやって守ってるのかは知らない。……だから恐ろしいんだけどね。


「もし手がいるようなら教えてください。いつでも増やせるんで」

『そうかい? だったら、その時は遠慮なくそうさせてもらうよ』


 理事長は、もしかしたら何となくわかったのかも知れない。だって、海棠が助けを求められるようなところと言ったら、たった一つだから。


「それとは別に、……その時が来たらみんなに話をして欲しいんです」

『日向くん。私は彼女のことは……』

「あいつ自身のことじゃなく、4月いっぱいで学校に来られなくなるのはどうしてか。それをみんなに話をして欲しいんです」

『……そこまでは言われていないから、大丈夫かな?』

「あともう一つ。アレを使わせて欲しいんですけど」


 それを言ったら、『もちろんだよ!』と、すごくいい返事が返ってきたからほっと息をついた。