「あんたはただ、信じて待っておきなよ」

「………………」

「あんたには下僕が一番似合うけど……でも」

「………………」


 オレはね、もう大丈夫。あんたのおかげで、母さんはオレのこと思い出してくれたから。下僕はこれでお終い。
 よく頑張ったね。苦しかったね。つらかったね。寂しかったね。悲しかったね。でも、そればっかりじゃなかったでしょ? みんなといて、楽しそうなあんた見てたら、そうなんだろうなって思ってた。

 ……初めて会った時は、本当に妖精かと思った。次はお姫様で、下僕で……。どれも似合うんだけどね。それでもあんたはお姫様として、王子様の隣にいるのが一番だと、オレは思うから。
 だから。……幸せになってねと。そう思いながら頭にぽす……と手を乗せ、今まで頑張った労いを込めて、ゆっくりと頭を撫でてやる。


「頑張ったから、ちょっと休憩。……お城の上で待っておきなよ。休みながらさ」

「………………」

「絶対、オレが助ける。……信じて待ってて」

「………………」


 返事なんていらないよ。だって、十分オレには、あんたからのSOSも、信じてることも、諦めないことも、十分伝わって――。


「(……え)」


 ……今、確かに……。確かに手に、振動があった。


「(……。ばかだなあ。ほんと……)」


 助けてやれるよ? もう、十分準備してきたんだから。でも、よくオレなんかを信じようと思ったね。神経疑うわー。
 だって、オレだったら絶対、オレだけは信じないもんね。めっちゃ疑ってかかる。まあ、オレが人間不審なだけだけど。

 ……知ってる、わけじゃないよね。オレがルニだってことも、怪盗だってことも、こんなことしてるってことも。
 知ってたら言ってくるんだろうし、……バレないようにしてきたから、バレてないはずなんだけど。それにしても、よく信じてくれるよ。


「(でも、ほんの少しでも頷いてくれたんだ。その分は必ず。きっちりお返しますよ)」


 オレが何も言わないから。それに、驚いたことがきっと手を伝ってこいつにもわかったんだろう。どうしたのかと、ほんの少しだけ視線を上げてきた。


「(こらこら。拒絶するならちゃんと最後までしないとダメでしょ?)」


 でも、もう十分わかってる。


「……よくできました」


 こんな追い込まれている状況でも尚、『信じてるから』って。頑張って伝えようとしてくれてるこいつを褒めてやる。
 視線が絡んだほんの一瞬に、自信満々に笑ってやった。それから、わざと頭を混ぜ繰り返す。わしゃわしゃとしている時に、聞こえないくらいの声で呟いた。


 ……待ってて。信じててって。


 素直になんか、言えるわけない。でも、拗れきってるオレがここまできっと変われたのも、こいつのおかげだ。


 ――……助けるよ、必ず。


「ありがとうみんな! バイバイ!」


 たとえあいつが『またね』と、そう言わなくても。もう、……あんな思いはさせない。

 ――だから絶対、あんたに言わせてあげるよ。