すべてはあの花のために➓


 ――ガチャ! がつん!


「あーちゃん無事!?!?」


 いや、君が助けたい奴が死んでますけどね……?
 どうやらやっぱり、こいつにオレは邪魔され、助けてもらうことが多いみたいだ。


「(……マジでヤバかった。ほんと、今冷静になったらいろんな人が嘆く。そしてオレは絶対に殺される)」


 そして肝心のこいつはというと、頭に大きなたんこぶを作ってオレの上で伸びている。変な頭の恰好にならないように、取り敢えず必死に押さえてやる。


「(え。死屍累々なんだけど。生徒会室の外……)」


 一体何があったのか聞いたら、オウリが投げ飛ばしたらしい。


「(……うん。確かにオウリとこいつの戦い見たいよね、一回くらい……)」


 多分こいつには、本気のオウリだとしても軽々と投げ飛ばされるんだろうけど。
 そうしたら、オレの上に乗っかってるこいつが、もぞもぞ動き出した。……でも、口から出るのは『小動物』と『悪魔』。

 きっとそれが、モミジの合図だと思った。……やってくれ、と。
 出てきたくなんてなかったんだ。今、ただでさえ無理してる状況だ、こいつは。


「っ、ごめん――」


 したくなんてなかったし、しないって言ったのにしてしまった。でも気を失う前に、モミジの口は『ありがとう』と動いた気がした。
 そう言う意味で言ったってわかってても。気絶させられて『ありがとう』って言われても。……マゾにしか聞こえないよね。うん。

 それから、なんとか屍から復活したみんなは、オレの上で完全に伸びてるこいつを心配してきた。


「あっちゃんと話せた? 会話成立した?」


 キサにそう聞かれたけど……あれ? そもそもの『会話』の定義とは?

【会話:複数の人が互いに話すこと。また、その話】

 ……うん。まあ定義で考えたらできてるのかもしれないけど。内容的には、めちゃくちゃ薄っぺらいよね。

 だって、みんなと何話したのか聞いたあと、ずっと二人して謝ってただけだし、名前呼び合ってただけだし、あとはキ……いや。これは会話とかじゃないから無しにして。
 まあオレの言葉に、こいつが返してくれただけで。視界に入れてくれただけで。名前を呼んでくれただけで。こいつの中に、オレがいてくれるだけで。十分だけど。


「(それに、諦めてないってことがわかっただけで、オレは十分。俄然やる気出た。めっちゃ追い込んでやる)」


 それからやっと起きたこいつは、オレの存在をやっぱり消していた。……まあ、レンがいるからだろうけど。
 そして、もう時間なのか。本当に最後。一人一人あいつに一言ずつ声を掛けた。

 カナが。オウリが。アキくんが。アカネが。ツバサが。チカが。キサが。順番に声を掛けた。そしてキサがオレの肩をぽん、と叩く。


「どれくらいかかって帰ってくるかわかんないぞ。ちゃんと話せ」

「……はあ」


 勇ましいね、ほんと。オレが知ってる女たちは。
 そう言われたら、行くしかないじゃん。レンの前だから、返事は返って来ないだろうけど。……大丈夫。さっきので、諦めないってことだけは十分わかったから。


「………………」

「………………」


 なんて言ってやろう。別に、最後になんてさせないんだけど……。
 でも、言いたいことは、こいつの前にきたらすっと出てきた。初めて会った時も、そうだったな。


「……信じてって、言ったの覚えてる?」

「………………」

「オレが絶対に何とかしてやるって言ったの」

「………………」


 そう言ったら少し、……ほんの少しだけ、視線を下げた気がした。


「そ。忘れてないんならいい」


 やっぱりさっきのは気のせいなんかじゃなかった。
 ……信じてくれてる。諦めないで、待っていてくれてる。こいつがそう思ってくれてるだけで、なんだってできそうな気がする。