すべてはあの花のために➓


 それから、残された数日。みんなは代わり番こにあいつに話しかけに行ってた。でも、やっぱり収穫がないのか悔しそうな顔をしてた。


「(ま、もう何も言わないけど……)」


 あいつが仮面を取った夜から、またモミジから電話はなくなり、あいつは時間通りに朝登校してくるようになった。


『……悪い、九条……』

「いいって。でも、取り敢えずは最後の日。多分ギリギリまで踏ん張るつもりだろうし、帰りは負ぶって帰るようになると思うから、少しでも筋トレしてたらどう?」

『大丈夫だ。車が来る』

「……そう」

『でも、そうなる前になんとか……』

「ダメだろうね。あいつすっごい強情だから。多分最後の日まで、みんなと過ごす時間。一秒でも多く思い出にする気満々だよ」

『……オレは、見てることしかできない』

「レンのせいじゃないよ。あいつがそこまで頑固なのがいけないんだし、これを考えたのはオレだから」


 電話で、レンが悔しそうにそう話してきた。……大丈夫だ。大丈夫。何もかも全部、上手くいくよ。

 そして、あっという間に最終日。みんなすごい悔しそうだったけど、あいつが元気になるならと。療養へと背中を押してやることにしたみたいだ。それに、あいつもここ数日、顔色は化粧で誤魔化していたものの、なんだかんだで楽しかったみたいだ。それは、見ていてよくわかった。

 そして最後、みんながあいつに「いってらっしゃい」と、一人ずつ声を掛けている。……掛けて、いたんだけど。


 アキくんはあいつを思い切り抱き締めるわ、カナはほっぺにちゅーするわ、クソ兄貴は耳元で多分告ってたし、キスしかけるし、……オウリはガッツリキスするし? アカネは、……うん。とっても心穏やかに見られた。でも、チカの奴の至近距離で目なんか瞑るから、また空からタライ落ちてこないかなって、ちょっと思った。


「(キサ、何話してるんだろ……)」


 みんなの会話は何となく聞こえたんだけど、キサはあいつに抱きついてから、何かを小声で話しているみたいだ。


「(キサもキサで、オレらの中だったら一番にあいつのことを理事長から聞かされて、きっと不安だっただろうな)」


 それでもキサは、あいつにいろいろ踏み込むのと同時に、あいつにいろんなことを教えてた。それに、オレもたくさん、あいつに助けてもらった。


「(やっぱりさ。姉ってオレには必要な存在なんだよ)」


 ハルナがいなくなってから、キサはオレのことをすごい心配してくれて、なんだかんだと姉代わりをしてくれていた。……大丈夫。一応ツバサもそうなろうって思ってたのは伝わってたから。
 それでもやっぱり女と男。ツバサもよく気が付くようにはなったけど、やっぱり視点が違っていた。


「(何も聞かずにいてくれたキサに、オレはいろんなところで助けられたな)」


 それを利用したのはオレだけど、聞いてこなかったキサは一番不安だろうし、それでいて一番強いんだなって。そう思った。
 ……そう過去を振り返っていたら、いきなり騒がしくなった。


「茜! 桜李とチカと、ついでに圭撫を確保!」

「あいあいさー!」

「え!?」
「おい!?」
「なにー?」


 そうキサが命令すると、アカネは三人をぽ~いっと生徒会室から出してしまった。


「え。……え? な、なに?」


 そう言って周りを見ていたら、あいつはつらそうな顔をしてた。つらそうで。どこか、……怯えているような。


「秋蘭! 翼と月雪くんを確保ー!」

「アイアイサー」

「は!? なんだよ!」
「出ればいいんですね」


 次にキサはアキくんにそう指示して、二人を出した。去り際に、何故かレンに軽く手を上げられた。
 どうやら、キサの話によるとプレゼントらしい。あいつと二人きりにしてやるから話せよって、そういうことみたいなんだけど。


「え? ……よくわかんないんだけど、鍵閉めていいの? あんた、オレと二人きりになるよ? 嫌でしょ?」


 そんなつらそうな、怯えた顔されたらオレだって嫌だ。
 オレは、……話さなくてもいいんだ。そりゃ、話せるものなら話したいけど。あんたが笑ってくれてたら、それでいい。たとえ、それが最後でも。