すべてはあの花のために➓


 ――だったらとことん嫌われようと思います!

 というのはかなり本気。だって、モミジから一向に電話が掛かってこないんだ。それに、……慣れないと。いずれ、本当に離れていってしまうんだから。
 だから、今までしたことなかったけど、ウザいくらいつきまとった。それはもう、オレでさえウザいと思うくらい。でもあいつはもう、オレと話をすることすら、触れられることすら、近づくことすら、視線を合わせることすら、名前を呼ぶことすら、誰かがオレの名前を呼ぶことすら拒絶するらしい。


「(あ。また無視された。しかも多くの命が犠牲になったし)」


 傷付くなんておかしい。胸が痛む度、そんなことはおかしいんだと、そう言い聞かせるために、その回数分を正の字に書き残した。自分がしてしまった結果だと、そう言い聞かせながら。


「ゴミ箱部屋の中にあるのに、どうして廊下のゴミ箱に捨てに行くの?」


 オレのせいでお亡くなりになったペンたちを廊下のゴミ箱へ捨てに行く時、そう聞いても返事は返って来なかった。嫌いと言われるよりも、あいつの中からオレの存在を消されてしまったことの方がキツかった。


「……ねえ。なんで無視するの? 嫌なら嫌って言えばいいじゃん」


 さっさと捨てて、さっさと戻ろうとするあいつに声を掛けたんだけど。

 ――バタンッ! ガチャッ。……あれ?


「(……もうっ、オレがいるのに鍵なんか閉めて。困ったもんだ)」


 そう思ってないとやってらんないもん。怖いぐらい、ポジティブじゃないと。傷付くことなんか、許されないんだから。


「一人旅もいいけど、オレと行った方が楽しいよ」

「どこがいいですかね。行きたいところがいっぱいです」

「だからオレが――」


 新歓の場所を、去年と同じようにある程度生徒会で候補を絞ることになったから、オレもこいつといろいろ相談(※一方的)をしてたんだけど、なんでかチカに止められた。


「何チカ」

「……もう、やめて。くれ……」


 どうやらオレよりもみんなの方が堪えられなかったらしい。うーん、それはそれで困った。
 一体何があったんだと。どうしてあいつはおかしいんだと聞かれた。何もないと答えたら、たくさんの命が無くなったのが何よりの証拠だと言われた。


「(……別に。何もない)」


 ただ、嫌いと言われ、完全にオレが無視されることになっただけ。説明しろと言われても、寝かしつけようと思ったのに、それを拒否られたから無理矢理押さえつけただけだし。
 オレが、無視されるようなことをしたから。オレが、無視するようにしてるから。

 ……これでいい。別に、苦しくない。寂しくもない。だっていずれ、……こうなるんだから。