すべてはあの花のために➓


「……はは。あー。……ちょっと無理かも」


 大急ぎであいつに電話をする。


「……あ。もしもしレン? ……え? ああ寝かせようと思ったんだよ。そっか、レンは知らなかったっけ」


 大丈夫。こんなの、全然……。


「うん。そうなんだけど逃がしちゃって。多分理事長室に行くと思う。……何でか? 勘だよ勘」


 今にも泣き出しそうだったんだ。あんなこと、言わせてしまったオレが悪いけど。今はもう。泣く時は、一人だろうからさ。


「だから行ってあげてよ。ここで巻き返すチャンスだよ~。……え。オレ? 何言ってんの。別におかしいことなんかないでしょ」


「後は頼むね」と、そう言い残しオレはベッドへとダイブする。


「あー。…………きっつ」


 ほんと、自業自得だ。オレを裏切り者だとわかってても、あいつがオレを信じようとする気持ちを利用した。

 ……あれ。おかしいな。どうしてオレ、そんなことしてるんだっけ。……ああ。そうそう。レンとくっつけようとしてるんだよね、オレ。
 オレが考えるあいつの幸せは、……囚われの城から王子様が助けてくれて、それで、お姫様は王子を好きになって……。……今思うと、何考えてんだろ、オレ。
 ま、オレなんかが王子になんてなれるわけないし。花のお姫様のあいつの隣には、本物の王子がいればそれでいい。

 ……そっか。そうだよ。オレはこんなにも汚れてるから、近寄って欲しくなかったんだ。そうだ。そう……。だったらいいじゃん。あいつの方からオレのこと、拒絶して離れていってくれてるんだから。

 そうそう、思い出した。だからこの作戦にして――……。


「……無理無理。ほんと。わかってても、あいつに言われるのだけは……っ」


 そうしたんだって。オレが。自分からあいつを引き離すことなんてできるわけないから。
 だから、あいつに言わせたんだ。きっと。言いたくないだろうに。……マジで嫌われてたら知らないけど、それはほんとにきっつ……。


「あー、きっつ。ほんと。もうキツいって……」


 ――そう仕向けた。自分がしたんだ。だから。……それでオレが傷付いてるのなんて。ちゃんちゃらおかしいんだ。
 だって、一番傷付いてるのはあいつなんだから。


「さいてー。……はは。あーあ。……とまんない。……っ」


 だから、泣きたいのはあいつなのに。……オレが泣くなんて。おかしいんだって。