「……みんな、何やってんの」
どうやらみんなして、あいつをタンスから守る方向が定まったようだ。自分の人生を棒に振ってまででも、あいつを守りたいって意思がすごく伝わってきた。
「(ここまでしてくれてんのに、あんたはみんなを、……オレらを信じてくれないんだね)」
それが、やっぱりちょっと寂しかった。悲しかった。壁を、感じた。
「(まあ、今はそうも言ってられない)」
レンがここまでやっちゃった以上、オレはそれ以上のことをする。……ま。別に慣れてるし、どうってことない。
どうってこと、……ない。
「あんたのせいで、みんなネクタイもリボンもなくなってんだけど。どうしてくれんの。あんたがみんなを守ってくれるのタンスから」
「……すみま」
「『すみません』『ごめんなさい』だけでね、済んだら警察なんていらないんだって、何回言えばわかるの」
「……っ」
守るつもりだってことも、もう十分わかってる。……だからさ。オレらだって。あんたのこと、守りたいんだって。
守らせて欲しいんだってっ。
「……勝手にリボン、取られてんじゃねえよ」
「え……?」
「勝手に罪増やさないでくれる? あーめんどくさ」
低い、苛ついた声が出た。自分でも驚いたくらいだ。
「(……これ以上、あんたは罪を背負わなくていいんだ)」
オレが背負ってあげる。今までの分。もうあんたに、罪なんか背負わせない。
「(……ジンクス、ね)」
そんなもの、信じてない。オレは、そういう迷信の類いは嫌いだ。
「(……覚えてる? 両手首の話)」
オレは、スルスルと自分のリボンを解き、あいつの恐怖で震えている手をそっと持ち上げる。
「(……大丈夫。いいよ? オレは怖がってくれてていい。オレのことは拒絶してくれてていい)」
だって、そう仕向けた。オレに、あんたのことを少しでも漏れるようなことがあれば、一番最初に消されるのはオレだから。
「(あーあ。こんなにいっぱい巻いてもらって。……よかったね)」
ジンクスは、信じない。でもオレは、あんたを変えたいんだ。
「(利き手は、もう目標が決まってる人がつける方。パワーストーンの話。ハルナがよくしてた)」
あれは、あの時だけ着けてた。今は家に置いてるけど、大事なものだ。オレの、あんたを絶対に助けるっていう目標が詰まってるから。
「(パワーストーンでもない、ただのネクタイだけど……)」
そっと左手首を持ち上げて、ゆっくり一巻き。
「(……絶対、あんたを変える。あんたが変わらないと、あんた自身が助けられない)」
何かを変えたい時は、利き手じゃない方に。もはや巻いてるのオレだし、あんたはこの意味わかんないんだろうけど。
「(それでもこれは、オレの意思表示。あの時と一緒だけど、これは……あんたにそうしたいって意味を込めてるから)」
左へと一巻きしたらそれで十分。あとは、もう生徒会のみんなの分全部こいつが持ってるし、逃亡とかしなくてよくなった。
「(……突っ込んでこようか)」
結局のところ、両手を縛り上げた。素直にそんなこと、できるわけないもんね。
「はい逮捕しまーす」
「ひなたくん……!?」
「あんたの罪は、みんなの将来を台無しにしたことでーす。責任を持って、オレたちをタンスから守りなさーい」
「ええー!?」
そして、あいつの手首を縛り付けたネクタイを担いで引っ張っていく。
「(あ。……レン)」
そうだ、言わないと。
少なからず、オレも怒ってる。理由は、……まあみんなと一緒。ジンクスは信じてはない。でも、そういうのは自分が……っていうのは、どうしても思う。
「(……ね。ほんと、いろいろこじれてるけど、しょうがないじゃん)」
そう思ったら、レンの手首に巻かれてるあいつのリボンが見える。
「(しょうがないじゃん。どうやったって、オレはこいつが好きで好きでしょうがないんだから)」
レンを軽く睨み、トンッと軽く、胸に拳を突き付ける。
「…………ちょっとやり過ぎ」
そう言ってオレは、容疑者もといあいつを保健室まで連行した。
「ちょっ。ヒナタくん……?! どちらへ向かっているんですか……!?」
「え。泥棒が行くところなんか決まってるじゃん」
「……。とうとうわたしは。警察へ連行されるんですね……」
「(……絶対させないし)」
あいつが、冗談で言ってるのかはわからない。それはいつものことだ。でも、そうさせるわけない。絶対、あんただけはそうはさせない。
ま、みんなの分を全部巻いてるあんたは、もしかしたら体育館裏とかに連れて行かれるようになるかも知れないけどね。そこまではオレ、助けないからね?



