それから放課後、百合から交流会の申し出が来たと理事長に言われ、オレとレンはもちろん賛成で案を推した。もちろんあいつも。表向きは、桜と親しくなるために。でも家の目的は、桜を散らすために。
その本当の目的は、ただあいつを追い込むために。落ち着いたら、本当に百合とも交流してもいいと思うけど。アイやカオルの話を聞く限り、あそこは上が馬鹿な奴らなだけ。生徒やその他先生は、しっかり者も多いらしい。
それから無事に、あいつにレンが付いていることの報告もみんなにできた。よくもまあそんな嘘っぱちなことが、つらつらと並べられるよねー。みんなも、やっぱりレンの嘘の詰めが甘いのか、なんだかおかしいということには気が付いたみたいだ。
でも明日のことで頭がいっぱいみたいで、……何としてでもあいつのリボンをもらおうと、目がぎらついていた。
「(……あんの。ばか……!!)」
わかる。わかってる。今日が、遅刻なんてできないことくらい。……だとしても。
「(顔色が悪かった。レンも苦笑いしてたし、モミジからの電話もない。……今日も寝ずに来たのか)」
これで三日目。このままじゃ、本当に倒れる。
「ちょっとみんな、いい?」
あいつとレンが一緒になって話をしている間に、みんなに声を掛ける。
「なんかあいつ、体調悪そうなんだけど」
「葵か? ……あんまりわからないな」
普段と見た目はあんまり変わらない。それでも、確実に寝ていないんだ。ここ数日。
「お披露目式のあと、誰か逃亡が終わったら保健室突っ込んできてよ」
「そう言うヒナくんが行けばいいのにー」
「……オレ?」
「そうだな。俺も賛成」
「え。……ヤだし。なんでオレなの」
「そんなん、お前が気づいてやったからだろ」
「(……何なのみんなして。いつもだったら『オレが行くー!』ってうるさいのに)」
「たまにはひーくんが行ってあげたら?」
「えー。行きたくない。ねえアカネ、お願い」
「だめだめ! だめだよひなクン!!」
「……なんで? 今日みんなどうしたの。全然がっつかないね」
「日向。多分その任務はあんたしかできないのよ」
「ん? ……どうして?」
「あっちゃんと保健室だよ? もし先生がいなかったらどうなると思う……?」
「……え。すごい。みんなそこまでがっついてるんだね」
「それもあるけど、日向だったら安心だ」
「え。否定しないのアキくん。ていうか、それもそれで複雑なんだけど……」
「安心っていうのは、お前ならちゃんと葵を休ませてやれると思うからだよ」
「……何なのみんなして。今日おかしいしくない?」
でも一番の理由は、襲わない自信がないからみたいだけど。
「(それに多分みんなの場合、あいつにすごい聞きたいことがいっぱいあるんだ)」
二人きりとあらば、たとえ相手の体調が悪くてもチャンスとばかりに聞きたくなる。……それが、みんなは嫌なんだな。きっと。
しょうがないから言い出しっぺのオレがそうすることになったんだけど、レンのせいで何もかもが前倒しになった。
「(レンの奴……)」
確かに追い込めって言った。言ったよ? それは間違いないけど。多分今、誰よりも追い込まれてるのはレン自身だと思うよ……?
あいつのリボンを取って自分に巻き付けたせいで会場中はざわめき、そのままレンは自分のも取ってあいつに巻きやがった。
「(ま、ジンクスを信じるのもどうかと思うけど……)」
それでもあいつが恐怖に怯え、震え、泣き出しそうになってるのが見て取れる。
「(流石に、ちょっとやりすぎかな……)」
だって、これだったらレンが完全にみんなから敵視される。……レンは、あいつを泣かさなくていい。



