「どうしたの。何があったの」

『……悪い九条』

「別にレンが悪いわけじゃないんでしょ? どうせあいつが寝てないとか」

『そうなんだ。あおいさん、さっきからずっと筋トレしてて……』

「筋トレって……はあ。まあ寝ないようにするためなんだろうけどさ」

『あおいさん、昨日も寝てないんだ』

「だろうね。アオイから電話掛かってこなかったし」

『でも、私たちは家側と言った以上、無理矢理寝させるわけにもいかない』

「ん? そこにみんないるの?」

『ああ。全員いる』

「……固まってていいの? ていうか、オレと電話してるのバレたらヤバいんじゃないの」

『その辺は抜かりないわ』

「そうですか? まあ、先生がそう言うなら信じますけど」

『それよりも九条さあん! このままだと彼女、倒れちゃいますよおー』

「倒れるかも知れないけど、その辺は上手くレンがフォローしてくれるから大丈夫」

『……私か。やっぱり……』

『でも、見ていて痛々しいよ。こうするしかないんだろうけど……』

「まああいつのことはレンにまるっと任せることにして――『おい』……取り敢えず、そっちは順調ですか? 無事に自己紹介済みました?」

『大丈夫よ。……でも、何度も言うようだけどこの作戦は』

「順調ならいいんです。取り敢えず、新しい駒が手に入ったんで、もう一度改めて自己紹介。お互いにしておきましょう」


 そう言ってオレはシントさんを促したけど、どうやら『作戦』に引っかかりがあるらしく軽く睨まれた。まあ、あいつを追い込むことは言ってるし。先生たちが言ってるのは多分……。
 オレが何も言わないとわかったからか、シントさんが話し出してくれた。


「もしもし。初めまして……とは違うんで、何て言っていいかわからないですけど。先日はどうもー? 信人です。いや~すっごいメンタル抉られたんでね。味方じゃなかったら片っ端からぶっ飛ばそうと思ってましたよ」

「(どんなこと言ったんだろ。知りたい)」


 ま、シントさんにもいろいろ言えって言ったからな。みんな、やればできるじゃん。偉い偉い。


『シントさん。全部九条の指示なんで、責めるならそいつにしてください』

「わかった!」


 完全に駒たちが棋士を裏切ったんだけど。……ま、それはいいとして。


「とまあ、シントさんも無事にこちら側についてくださったので、着実にチェックメイトへと近づいている感じですね」

『……それはいいけど、九条くん。彼女が心配だわ。このままだと……』

「その辺はレンがなんとかしてくれるんで」

『いや、どうやってだ』

「え? 寝させればいいじゃん」

『……だから。それをどうやって』

「まあオレもフォローするからさ。レンは追い込むことも、忘れないように。いい?」

『追い込みながら寝てもらうって。……私はどうしたらいいんだ』

「あれだよ月雪くん。食べ物に睡眠薬とか混ぜたらいいよ。君が作ったとか言ったら、葵は多分食べてくれるから」

『……そうですか? それじゃあその手で――』

『『『ダメ!! 絶対にそんなことしないで!!』』』

『……? どうしてですか?』

『『『あれは一種の兵器だから!!』』』

『……失礼ですね。それを食べている私はどうなるんですか』

『『『病院に行こう!? 絶対に味覚おかしいから!!』』』

『……九条。病人扱いをされてしまった』

「いいんじゃない? ついでに王子になって帰ってきてよ」

『どうやってだっ……!?』