『そうすることができたら、葵の中ではシントだけが、葵の事情を知っていて唯一動ける人間だ』
『……信人くんに、名前を探してもらうんだね』
「でも、それってどうやって? あの家にいた方が知れるんじゃないの?」
『結局のところ、調べようと思っても、シントが下手なことをしたら葵の身が危なかったんだ』
「シントさんの人質は、あいつか……」
『だから、結局思い通りに調べることができなかった。だから葵は、シントの遺留品と見せかけて、今までの日記を送るつもりなんだ』
「……!! オレも見たい」
『葵に聞いて』
「……チッ」
この間ちょっと見たけど、あの莫大な量だ。何かヒントがあるかもしれない。
「てことは、シントさんはこちら側に付けるってことか」
「まあそうだけどね。問題は、あそこを無事に出られるかどうかだよ」
「確かに……」と、みんなして言葉が出てこないけど。
『消そうと、思ってるんだ』
「消しちゃえばいいんじゃない?」
『あれ。ヒナタもそう思う?』
「うん。ていうか、シントさんが助かるのってそれぐらいしかないでしょ」
『け、消すっていうのは……?』
「……ああ! 記憶消去ですねえ?」
「そう。あそこにいた記憶を消せばいいんじゃないかってこと」
『そうなんだ。葵もそれが一番の最善策だと思ってるから、そうしたいと思ってるんだけど……』
「でも、あいつがそんなことを家に提案したとしても、そうしてくれる可能性なんてほぼ無いに等しいか」
『そうなんだ。アキラとの結婚に関しても、させる代わりに違うことをさせられてしまうんじゃないかって。葵は恐れてる』
「……だったらさ、先に家にバラしちゃえば?」
『いやいやヒナタ! バレたら即行でシント殺されるよ!?』
「シントさんそんなに柔じゃないよ?」
『いやいや。流石に無理あるわあ……』
「でもあいつはそうしようとしてるんでしょ? だからシントさんを、そこから出しても使える道具ってことを、家に思わせればいいんだって」
「ん? と言いますとお?」
「レンたちが、『そういう情報を掴んだ』ってことにして、報告しに行くでしょう?」
「ああ。それで?」
「夜な夜な枕元で、『シントさんを殺したら勿体ない』とかなんとか言って、暗示でも掛けたら?」
「九条くん。まともに考えてよ……」
「まあ報告するついでに、案を出してみたらどうかってことですよ」
「案か……」
「ちょっとでも使える道具として、勿体ないと思わせたらいい。オレも聞かれたら、シントさんの道具感をたっぷりとアピールするから」
『な、なんだかシントくんがかわいそうだな……』
「何が何でも殺させないように。四人には、シントさんの見張りも常にしてもらってた方がよさそうですね」
確かにシントさんがこちら側につけば、一気にポーンからクイーンクラスまで昇格可能だ。
「(出てきたが最後。シントさんもオレの駒になってもらいますよ)」
アオイからは、シントさんを捨てた日を聞こう。あとは、何とかしてそれとなくアキくんとこに戻ったかどうか聞かないとね。



