「初めは、なんとか言わせようといろいろ試みましたけど、結局あいつは言いませんでした。言ったけど、でも自分が生まれ、どうやってあの家まで来たかぐらいです。それ以上は泣きながら話すんで、聞くに聞けませんでした」
「………………」
「多分あいつは、みんなに言うつもりはない。もう一人に聞いてみたら、悔しそうに肯定していたので」
「………………」
「シントさんを捨てて、アキくんとの縁談を破談にするためにあいつが動いてること。それを家に密告するよう四人に指示したのはオレです。それから、あの四人を家側の人間として、あいつに接触するように指示しました」
「………………」
「あいつにとって最悪の状況だと、わざとそう思わせています。なんでかというと、あいつは誰にも自分のことは話そうとはしないから。……だから、誰もいない状況を敢えて作りました。他の誰でもない、あいつ自身に話をさせるために。だって、得意でしょ? あいつ。一人で勝手に話して、一人で自己解決し出すんだから。……その独り言を、あいつにはバレないところでみんなに聞かせるつもりです」
「……そんなの。どうやって……」
「それは言えないんです。これは、理事長との約束なので」
「……そう」
「だからオレは、今わざとあいつをそういう状況にしています。……つらいと思う。苦しいと思う。でもきっとあいつは、追い込んで追い込んで。……追い込まないと、きっと自分のことを話そうとはしないから」
「それは一理あると思う。でも、それでも言わなかったらどうするの。葵が消えるじゃん」
「流石にそこまで頑固だったら、先に名前は呼ばないといけないですけどね。でも、きっと大丈夫です。言わせます必ず」
きっと、消える寸前にあいつが思うことは、オレらの幸せなんだ。
だから、それを奪ってしまったことを後悔する。絶対に一度、消える寸前にオレらの方を振り返るはずなんだ。だってあいつは、何よりも関わった全ての人が、……大好きなんだから。
「それでいいんじゃない?」
「え?」
すんなりそう言うシントさんに、呆気にとられる。聞き間違いかと思うくらいだ。
「正直キツいと思う。葵にとってその方法は。それでも、そこまでしないとあいつが自分自身を変えようなんてことは思わないと思う。……だから、俺は君につくよ。だから、ちゃんと駒として扱ってね」
「……正直、絶対に止められると思ってたんで、皇の牢屋とかにでもシントさんをぶち込んでおいてもらおうかと思ってました」
「そんなの無いから! ていうか、俺ってそんなに大暴れしそうなの?」
「オレが知ってる限りのシントさんは、ですけど」
だってさっき言ってたし。名前を教えてもらったら、今すぐにでも呼んで助けてやりたいって。それだけシントさんは、猪突猛進なんだ。まあ、オレの中でだけど。そしてあおい限定で。
「葵のことと一緒だよ」
「え?」
「そんなことをしている理由は、全部葵のためじゃないか。だったら俺が、反対するわけない。だって俺も、葵を助けてやりたいんだから。それは、あの家で雇われることになってからずっと変わらない」
「シントさん……」
「でもさ~? 味方だったんなら俺には教えてくれたってよかったじゃん。ここ何日まともに寝てないと思ってるの」
「でも、あの日記を見ることを許されたのはシントさんだけですから。オレらは、……それを見ることをあいつに許してもらってないので」
「おお! それもそうだね!」
「(絶対手伝いたくなかったとか言ったらぶっ殺される)」
でもこれでシントさんも、きちんとこちら側の駒として使えそうだ。……本当、よかった。



