すべてはあの花のために➓


 そう思ってたら、いきなりシントさんが立ち上がって、オレの肩を掴んできた。


「葵のファーストキスを返してくれ!!」

「……どう考えたって無理でしょ。というか、今そんなこと言えるとかすごいですよね。ていうか知ってるんだ。へえ。結構しんどい話してるのに、そんなこと言うシントさんってはっきり言って最低ですね」

「冗談じゃん。暗かったから場を盛り上げようとしたんだし」

「……………………へえ?」

「…………そ。そう、だし」

「はあ。シントさんがあいつを十分好きなのはわかりました。ま、そういうことなんで、信じてくれますか?」

「でも葵から直接助けてとか聞いてないんでしょ? 泣いてるだけだったのに、なんで日向くんはそこまで知ってるの」

「あれ。シントさん、あいつから絵本の話とかって聞いてないんですか?」

「え? そりゃ聞いてるけど…………え。その絵本に何か描いてあったの?」

「表向きは変な絵本でしたよ。でも、いろいろ隠してたことがあったみたいで、それをオレは見つけてあげたんです。……でも、見つけた時にはもう、シントさんがあいつのそばにいてくれたから」

「日向くん……」

「もうちょっとなんとかしてあげてたらなって、ちょっと思います。……それでもオレは、あいつを助けるために、今までいろいろしてきたんですよ」

「いろいろっていうのは……」

「……話せば長いですけど、絵本の謎が解けたら、花咲家に行って話を聞いて」

「会ったの?! ミズカさんとヒイノさんに!」

「はい。二人がどうしてそんなことをしたのかは、あいつを道明寺に人質に取られてたからだって教えてもらったり、あいつの運命についても教えてもらいました」

「……そう、なんだ」

「あいつ、二人とオレたちを家に人質に取られてますよね」

「そこまで知ってるんだね」

「それって実は、あいつだけじゃなくてもう一人もなんですよ」

「え?」

「あいつに憑いているもう一人は、家にあいつと花咲の二人を人質に取られている。……だから、無理矢理仕事をさせられてるんですよ」

「……アキのことは……」

「気になっていたのは本当です。……だいぶ荒療治ですけど、家族に愛された記憶がないあいつに愛を教えてあげたいと。そう思ってアキくんを宛がったみたいですね。自分も好いた相手なら、あいつも好きになるんじゃないかって」

「だいぶ荒療治過ぎでしょ……」

「それでも、もう一人も焦ってたんです。このままだと、名前を取り戻す前に乗っ取ってしまうから、一刻も早く探してくれそうな人手を増やしたかった。……それに、相手は皇。いろいろと情報は入ってきそうだった」

「……ま、確かにそうだね」

「でも、そこで初めて道明寺へ引き取られた理由を知った」


 その経緯をシントさんに詳しく教えてあげた。


「オレの話だったら信じられないかも知れないので、あとで本人から話をさせます」

「え? どういうこと?」

「それはまだ時間じゃないので置いておきます。……それから、雨宮梢さんについても話しますね」

「……まさかとは思うけど」

「彼女は決して、柊の元社員だった母を殺したことを恨んでなんていないですよ。ていうか全部嘘だし」

「……はあ。人間不信になりそう」

「先生は……いえ。先生と先生の母親は、公安の人なんです。犠牲者だと偽りあそこに潜り込んで、薬の調査及びあいつの抹殺を命じられていた。もちろん今は違いますけどね」

「……公安? そんな……」

「敵を騙すには、まず味方からだったんですよ。シントさんが敵だと思っている、日下部カオル、月雪レン、そして道明寺アオイは全員、こちら側の人間なんです」

「……嘘だ」

「本当ですよ。まあ、シントさんに酷いこと言えとか、嘲笑ってとか、完全に家側の人間だと思わせてって指示したのはオレですけど」

「何してくれちゃってんの!?」

「シントさんをここまで無事に帰ってこられるよう、あの四人に守ってもらうように指示したのもオレですけどね」

「ありがとうございます」

「いえいえ」


 でも、こうして彼もここまで帰ってこられたんだ。……本当によかった。