すべてはあの花のために➓


「……し。ししし。しって。……ててる。るる。しいぃ……」

「嘘こけ」


 目は開いた途端にキョドリ過ぎ。口開いた途端の動揺半端な。


「別に、知らないことを責めてるわけじゃないです。いじめすぎましたすみません」

「……そんなの、俺は信じない」

「あいつに酷いことしてきたから、あいつの両親やもう一人、道明寺の人たちを、シントさんは絶対に悪者にしたいんですか?」

「…………ふんっ」

「(図星かい……)」


 でも、こんな話をしても信じられないだろう。今までシントさんの中では、完全な悪者だったんだから。


「信憑性がない」

「ま、そうでしょうね」

「……ねえ。君はなんでそんなこと知ってるの。何で俺よりも理事長よりも……いや。寧ろ葵よりも知ってるの」

「それは……」

「そこまで知っててさ、なんで葵の名前を探そうとかしてくれないの? 助けようと、してくれないの!」

「……オレ、助けないなんて一言も言ってないんですけど」

「だって完全に悪者じゃん!」

「……もしかしてですけど、オレじゃない人からその話聞いたら信じてたり……」

「まあ有り得るよね」

「(やっぱりか……)」

「もし、それが本当なら、どうして君が知ってるのか知りたい。俺を君側につけたいのなら、俺を信じさせてよ」

「あ。別にシントさんいらないんで」

「どういうこと?!」

「ま、話はしますよ。どうしてオレが、こんなとこまで知ってるのか」


 知っている彼になら話してあげよう。オレの代わりに穴を埋めてくれた、感謝を込めて。


「シントさんは、どうしてハルナが死んだのか知ってますか?」

「……知ってるけど」

「でもそれ、多分違う理由なんです」

「……どういうこと」


 やっぱり、話すのはちょっとしんどいな。


「むかしむかし。あるところに、いつもいつも花畑で涙を流していた女の子がいたんです」

「……?」

「どうにかその子の涙を止めてあげたいと思いましたが、こじれきった自分に、勇気のない自分に、そんなことはできないと。……いつもいつも、見ているだけしかできませんでした」

「日向くん……?」

「自分がもっと明るい性格なら、その子の涙を止められるかも知れない。もっと元気で、いつもにこにこ笑えてたら、すぐに声を掛けてあげられたのかも知れない」

「………………」

「……オレはねシントさん、ハルナを借りていたんです」

「日向くん……」

「その涙を、自分が止めてあげたかった。……綺麗でしたけど。それでも、笑った顔が見たかったんで」

「……き、みは……」

「あいつと仲良くなってたのはオレの方だったんです。女だった頃の。ハルナは、……オレを庇って死んだ」


 でもね、ハルナ。つらいばっかりじゃないんだ。オレも、救ってもらえたから。
 だから、やっと言えるんだ。あの時、オレを庇ってくれて、ありがとうって。