「まずは、……五十嵐」
紫苑さんの妻、サラさんを組から出ていかせるように仕向けた。
次は、氷川。タイジュさんを使って薬を密売させていた犯人に仕立て上げた。冤罪として。……そして、いずれ自殺へと彼を追い込んでしまう。
それから、朝倉。キクの父親を過労死させた。
次に二宮。道場出身で五十嵐組にいる奴らを誑かし、アサジさんとチガヤさんを襲わせた。
そして、柊。内部からの攻撃を行い、倒産の一途を辿らせた。
「まあこれは、あいつにいいことだと思わせてあいつの頭を利用した、道明寺の策略ですけどね」
そして、あいつ自身がしてしまったこと。……利用されているとも知らずに。
「そして、もう一人が家に来て、アキくんを手に入れたいがためにしてしまったこともありますね」
まずは、薬の開発。それから、運搬の経路の確保。
それから、氷川カリンさんを流産させた。柊トウヤさん、スミレさんを追い込んで、交通事故に遭わせた。桜庭と桐生を潰しにかかった。九条ハルナを、……殺した。
それから、記憶の消去と操作。とある道具を作った。
それを使ったのは、皇。シランさんを壊し、シントさんを手に入れて仕事を手伝わせ、アキくんを使って皇自体を手に入れようとした。……そして無事に、縁談も承諾された。
あとは、母さんを薬漬けにして壊し、ユズとコズエ先生を使って五十嵐組を壊しにかかった。
……そして最後。海棠を手に入れ、薬の運搬をさせようとしている。
「そうですよね? こんなことが書かれてたんじゃないですか。その契約書に」
「………………」
やっぱり何も言ってこない。でも、家側の言い方だったら多分、こんな感じで書かれていたんだろうな。もっと酷いかも。
あいつのことをそんなに知らないのに、これを見てシントさんはそれでもあいつのそばにいたいと思ったんだ。それは、本当にすごいと思う。オレもそう思えるかどうか危ういくらいだ。……どれだけべた惚れだったんだよって思うけどね。
「そして、学校に行かなくても十分頭がいいあいつを、桜へと入学させ、最終的に卒業と同時に海棠を手に入れる手筈となっている」
「………………」
「それで、あいつはこのことを編入時に理事長に話している。身動きが取れない理事長ですが、あいつにほんの少しの気休めの機会を設けようとした」
それが、願い。
あいつ自身がオレらを助けることで、罪の意識を軽くしてあげようとした。
そして今、……その願いを全て叶え終えた。
「ですが、時間が迫っている中、あいつは取り敢えずはアキくんとの縁談を破談にしようと動き、シントさんも皇へと返した。これで皇との縁談は破棄され、あいつの時間も延びる、……はずだった」
「………………」
「でも家は、あいつがそうすることをすでに知っていた。そして実は、皇との縁談の方が保険で、できたら儲けぐらいしか思われていなかった。最初から、あいつの相手は、道明寺の息子だった。そしてその期限は、アキくんとの結婚よりも早い」
「………………」
「合ってるでしょう?」
「………………」
目で『違うわボケ』って言われてる。
わかってるわかってる。ちゃんとオレは、全部知ってますから。
「その日記には、あいつが今までしてきてしまったことが書かれている。一番信用しているシントさんにあいつはそれを託し、シントさんも、条件を設けてみんなに、オレらにそれを知ってもらおうとした。……あいつが、したくてしたわけじゃないってことを」
シントさんが部屋にこもっていたのは、その箇所を、あの莫大な量から探し出していたから。
条件をつけたのは、まずはあいつが二重人格だということを知ってもらわないと、あいつだけがそんなことをしてきたと勘違いされてしまうから。あいつの本当の理解者となって、自分と一緒にあいつの名字を探して欲しかったから。
「……違いますか?」
「………………」
「違いませんよね。これは全て事実だ。オレは事実を並べて言ってきましたから。だから間違ってはいない。……間違っては、いないんですけどね」
――――さあ。ここからだ。きっとこれは、あなたも知らないことだろうから。



