すべてはあの花のために➓


「あいつが駒扱いされてるのは、道明寺の本当の子どもじゃないからってことも?」

「…………」


 返事はしない、か。ま、それでもいいけど。その綺麗な顔、歪ませてあげますよ。


「あいつが本当の親に捨てられたのも? 気味悪がられて」

「…………っ」


 知ってるし。気味悪くなんてないけど、これはあいつがオレたちに直接教えてくれた言葉そのままだから。


「拾ってくれた人はいい人たちだったけど、今の義父にお金と引き替えに引き取られたことも?」

「………………」


 ミズカさんたちは言っていた。確かにお金が来たけど、そのお金には一切手をつけていないって。


「なんでかって言ったら、あいつが異常な子供だったから。今の家に、頭を買われた。今は、お金としか思われてないから。……これもご存じですよね?」

「………………」


 実際のところ、あいつがシントさんにどこまで話してるのかはわからない。ここまでは、オレらみんなが知ってるあいつの話。
 ……ここからは知ってる人もいたりいなかったり。オレが知っている、最後の一つ以外のことを。教えてあげましょう。



「あいつが、飛び切り癖のある二重人格だということも。その人格はアキくんが好きで、家のためにいろいろしてきて婚姻を取り付けたことも。その人格に、乗っ取られそうになっていることも。それが、あいつにとって嫌なことで助けを求めているということも。……これが、あのカードに書かれてることですね。だから言ったでしょう? カードのことはわかってるんだって」


 順番にいこう。何から言ったらいいか、……順繰り考えながら。


「……生まれた時から異常だったあいつを気味悪がって、両親はあいつを海に捨てた。そこであいつを拾ったのは、花咲瑞香さん。それから花咲家で、緋衣乃さんとともにあいつはあそこで育てられました。ですが、海であいつは体を奪われている。それが今、あいつの体を乗っ取ろうとしている」


 契約の内容は、あいつ自身の名字を呼ばれる前に、結婚をして名前を変えられてしまうか、20歳になったら体を奪うこと。日記を書いて、もう一人に逐一あったことを事細かに報告をすること。無理をし過ぎたら時間を削ること。もう一人が嫌いなことをしても同様。


「たとえば、……長い髪を切ってしまう、とかね」


 まずは、捨てられて、拾われるまでの話を……。


「花咲で、時々もう一人が暴れはしたものの、楽しく暮らしていた。いろんなことを、たくさんたくさん教えてもらいながら」


 けれどある日、道明寺に目をつけられてしまった。金になると思った道明寺はあいつをなんとか手に入れようと、ミズカさんとヒイノさんを使って、あいつの方から花咲を出させようと仕向けた。……あいつが、自分のせいだと。本当の両親のことを、自分が仲違いさせてしまったことを被せるように。


「そしてあいつは、まんまと道明寺の策略に引っかかり引き取られてしまった」


 この時は知らなかったんだ。自分が、そう仕向けられていることに。


「そして引き取られたあいつは、自分ともう一人が、家のためになることをしていた本当の理由を知った。……シントさんも知ってるんですよね? あの契約書に書かれていたんでしょう?」


 きっと、誰も知らないだろうことを……。知ってしまえば、あいつのことを殺したくなってしまうかも知れない内容を。

 でも、それはちゃんと知らない場合の話だ。