すべてはあの花のために➓


「それは俺のそっくりさんだからあああー!!」

「……何も言ってないのにそう言う辺り、そうって言ってるようなものじゃないですか?」

「はっ……!」

「(……馬鹿って伝染するんだね、うん)」


 でも、どうやらやっぱりシントさんはオレを警戒してるみたいだった。一応は向かい側のソファーに座ってくれたけど、ずっと睨んできてくるから。
 すっごい警戒心。すごいよ? マジですごい。完全にオレを敵と見なしてる目だもん。ソファーにあったクッション抱えてるから、顔の半分は隠れてるけどね。目がね。ヤバいね。人一人殺してるような目だね、うん。


「そんな睨まないでくださいよ」

「……何。それで脅そうとしても、葵のことは教えてやんないよ」

「(認めちゃったよ、この人)」


 まあ言質は取れたんで、良しとしたいとこなんですけど。


「……すみませんシントさん。家でちゃんと仕事ってしてたんですよね?」

「なんの!」

「え。……あ、あいつの執事の……」

「え? ああうん、してたよ? 葵の一通りの身の回りの世話とか、庭の花の水やりとか、車庫入れとか」

「あれも要望とかだったんですか?」

「うん。要望要望」

「(そのうちあいつ、みんなにメイド服とか着させるんじゃなかろうか……)」


 変に勘違いしてしまったのは、まあいつかはヒナタも気が付くことでしょう。


「……本当はこんなことしたくなかったんですけどね。こんな脅すような真似」

「絶対に嘘だ」

「だってシントさん、勝手にオレ敵視してるじゃないですか。だから話聞いてくれないだろうと思って」

「敵視とかしてないし。負けたのがちょっと悔しいとか思ってないし」


 それ、思ってる時に言うやつだし。


「でも来てくれたってことは、話を聞いてくれる気はあるんですね」

「……ていうかさ、そもそも何の話なの? 日向くんは、一体何者なの」


 そう言うってことは、シントさんもオレが『何かをしてる』と勘付いているってことか。まあそうだよね。みんなと話してる時に、シントさんと目が合って笑っちゃったし。


「……シントさんは、どこまであいつのことをご存じなんですか」

「だから、言ったじゃんさっき。俺が知らないのは、葵のことでたった一つだけだって」

「本当ですか?」

「……何が言いたいの」


 シントさんの雰囲気が鋭くなる。……これかな。ツバサがやられたってやつは。まあ確かに気圧されるかもね。
 でも、それはシントさんの立場が上の場合の話。


「そうですか。……だったら」


 その鼻、存分にへし折ってやりますよ。