すべてはあの花のために➓


 それからオレはカエデさんに、消えた約二年半はクルミさんと一緒にいたこと。そして子どももいたこと。そして、……その子どもを捨てて帰ってきたことと、詳しい理由。最後に……。


「……アオイちゃんが、カナタの娘?」

「はい」


 もらった写真を、カエデさんに見せてあげた。即焼き増しして送ってきてくれたから。大量に。


「……アオイちゃん、だな。面影が残ってるし、何より奥さんとそっくりだ」


 目を細め、じっと写真を見るカエデさんはきっと、昔のことを思い出してる。


「それはいいけどよ。アオイちゃんを助けるためにカナタのところまで行ったって。……そういうことだよな」

「はい。どうしても行かなくてはいけなかったんで」

「にしてもなんで。言ってくれたら、アオイちゃんもつらい目に遭わなかったかも知れねえのに」

「でも、あの時のカナタさんにとっては、そうするしかできなかった。……まあ詳しくは、今度ド〇クエ返しに行った時にでもちゃんと聞いてください」

「はは。……そうだな。どこやったっけな~」


 嬉しそうに頬を緩ませているカエデさんの頭の中は、きっとそれを探してるんだろう。嬉しそうな顔の中に、若干の焦りが見え隠れしている。


「カエデさん」


 それもあるけど、きちんと言伝は伝えたんだ。彼も、オレが名前を呼んだらふっと真面目な顔に戻す。


「……やっぱりあの噂は本当なのか」

「はい。紛れもない事実です」


 もう一人の友人でもあるミクリの話になると、彼は悔しそうに顔を歪めた。


「ヤバいじゃねえか。わかったんならさっさと助け出してやらねえと」

「助ける手順は、今順調に踏んでます」

「そ、そうなのか?」

「ちゃんとあいつは助けます。……ううん。みんな助けます」

「……ヒナタ?」

「なのでカエデさん。今のことは絶対に誰にも言わないでください。……話す時が来る、その時まで」


 じゃないと、彼だけではなくみんなが無理矢理にでもあいつを助けようとし出してしまう。そうなったらもう、収拾がつかなくて何もかもがパーだ。


「それを言ってくれたってことは、ちっとは俺を信用してくれたってことか」

「少しも何も、カエデさんのことは最初から信用してますよ」

「え」

「でないと駒になんかするわけないじゃないですか。カエデさんには、いろいろ迷惑を掛けてしまって本当にすみません」

「お、おい。どうしたんだよ。いきなりしおらしくなって」

「え? オレいっつもしおらしいでしょ?」

「どこがだよ」

「まあそれは事実なんで置いておくとして」

「……俺、本気でお前をしおらしいなんて思ったことねえぞ……」

「彼と連絡は……?」

「俺が柊、あいつは道明寺に入った最初の頃は。まあ二、三年経ってからはぱったり連絡は来なくなったな」

「(……きっと、アズサさんが亡くなったからだ)」

「ああ、でもその頃だったな。カナタから連絡が来たのも」

「(あいつを捨てて戻ってきた。それで、婚約者候補だったエリカを出て行かせた……)」

「その頃は……あーなんだ。政治家の奴と親しくなったとか言って。それっきりだなミクは」
 
「それって、もしかして白木院ですか」

「そこまで知ってんのかよ」

「(オレの予想が正しかったら、多分……)」

「……ま、いい噂もなけりゃ悪い噂も聞かねえよな。白木院は」


 ――恐らくは、【そこ】だろう。そして、それはエリカじゃない。彼女の父である、国務大臣。白木院カンナ。
 カエデさんの言う通り、あの男はよくもなく悪くもない。至って普通に見えるけど、そういう奴に限って裏で何かしてる可能性だってある。


「(決めつけはよくない。でも、きっとその可能性が高い)」


 でもそうならそいつは、実の娘を薬漬けにまでして何がしたかったんだ。