すべてはあの花のために➓


「時にモミジさんや」

『……? 何かいなヒナタさんや』


 用事はもう一個あるんだ。無理矢理話題を変えたけれど、まあしょうがない。これ以上は話したくないからね。ごめん。


「そろそろ、捨てたものが拾われるんじゃないかと思うんですがね?」

『おお! そうですな! きっと今日辺り荷物が届いたであろう!』

「そうそうそれでね、あの人もこちら側につけようと思うんだけど」

『お! とうとう知らない間に駒にしていたのをバラす時が!?』

「いや、あの人は駒じゃないわ」

『え』


 みんなにもさっき言ったけどね。彼をこちら側に引き入れる話。
 でも思ったけど、彼は駒じゃない。駒で欲しかったけど、でもよくよく考えたら……。


「だってあの人、駒なんかにしたら大暴れするよ? オレの指示なんか聞かずに、さっさと自分があいつの名前呼ぶに決まってる」

『……は。ははは……』

「だから言ったんだ。これからは守りに入るって。……オレが彼を、こちら側へつけたい理由はただ一つ。勝手にいろいろ混ぜ繰り返されて、オレの計画をパーにされるのを阻止するため。ただそれだけ」

『……あ、あははは……』


 それに、彼はあれでも次期当主だった頭を持ってる。頭はオレよりもいい。だから、駒として使って下剋上されるとか、堪ったもんじゃない。
 彼は抑え込むに限る。これは絶対だ。


「というわけで、なんか脅せるような弱みとか持ってない?」

『も、もうちょっとさ、こう。言い方ってものが……』

「だって本当のことだし」

『本当でも……もっとこう。オブラートにさ? 包む言い方もできるよ? それにきっと、そんなことしなくても』

「いや。あの人オレのこと嫌ってるから。素直に話すら聞いてくれない。絶対」

『え? ……な、何かあったっけ?』

「モミジ知らないんだっけ? そうだよね。修行に行ってたもんね」

『……な、何があったんだ……?』

「軽くバトったんだよ。そしてオレが勝った。ただ向こうが勝手に敵視してるだけだけど」

『そ、そうなんだ。……ごめんね。躾がなってなくて』

「うん。本当にそう思う」

『……あはは』

「ねえ。何かない? とっておきの。これがあったら、絶対にぶっ飛んできそうなやつ」

『……………………………………………………あるにはある』

「溜めたねえ」

『あーでも多分めっちゃ嫌がる。しかもヒナタが知ってるってなったら、その標的になるの葵だし……』

「え? 大丈夫大丈夫。モミジってことにしとくし」

『わたしですかい』

「もちろんモミジのこともちゃんと話しといてあげるから」

『ま、まあもう会わないしね? ……だ、大丈夫なはず』


 なんだろう。どんな情報なんだろう。めっちゃ知りたーいっ。


『でも、確かに下剋上は有り得るね。葵に食いついてくる頭持ってるし』

「マジですか……」


 頭がいいとは聞いていたけど。彼は、本当に天賦の才なんだろう。


『でもね? 使ってもいいけど、脅すばっかりじゃなくて、ちゃんと話してあげて欲しいの。……約束してくれる?』

「……何。随分甘いじゃん。やっぱり特別だから?」

『まあね。心の穴を埋めてくれたから』

「……そうだね」


 その穴を作ったのは、紛れもなくオレだ。その穴を、オレは埋めてやれなかった。すぐに、埋めてやれればよかったんだけど。


『わたしは敵視されてたけど、でも葵が本当に懐いてたから。だから、葵が大事なものは、わたしも大事なんだ』

「……うん。そうだね」

『だから、……お願いヒナタ。記憶を忘れさせるために結構酷いことしちゃったし、あんまり酷いことはしないであげて? 葵も、きっとそう思ってるから』


 あいつを引き合いに出されたら、オレが断れないの知っててそう言うんだから。


「気が向いたらね」

『ちょっ、ヒナタ……!?』

「嘘嘘。冗談だって。まあ善処はするけど、向こうがどう出てくるかにもよるよ?」

『……うそ。そう言って、ちゃんと話してくれるんだもんヒナタは』

「めっちゃいい人になってるけど、オレ多分、あの人には容赦しないよ(勝手にあいつにキスマーク付けやがったし)」

『て、手加減はしてあげてね……?』

「それも向こう次第だけどね」

『だ、大丈夫かな……』