すべてはあの花のために➓


 それからモミジは、オレに【あるお願い】を託した。


『……いい、かな。頼める……?』

「それが、本当にモミジの望むことなら」

『うんっ。ありがとうヒナタ!』

「……ううん。そんなことでいいなら」


 それが、モミジのためになることなら。オレにはただ、そうしてあげるしかできないんだから。


『でも残念だなあ。もうヒナタに手を繋いでもらうことも、抱き締めてもらうこともできないのかあ』

「ないない。残念だけどね」

『ヒナタにチューしてもらうことも、もうないのかあ』

「残念だけど、もうとか以前にモミジにはしてないからね」

『ふふっ。つらかったけど、ヒナタと会ってからは楽しいことも増えたの。毎日の電話とか、すごく楽しみで仕方なかった』

「そう言ってもらえてよかった」


 初めは、少しでもモミジが楽になれるようにと思って初めたけど。……なんだかんだでオレも楽しかったし。


『……まだヒナタは、葵が誰を選んだって自分には関係ないって。そう思ってる?』

「モミジ。それは……」

『まだそんなことを思ってるなら。……わたしは、そんなことを言うヒナタだけは許せないし、成仏なんてできないかもね』

「……オレは……」


 どうして、そんなことを言うんだよ。……どうして。みんなしてオレにそんなことを言ってくるんだ。


『……ねえヒナタ? ヒナタも今までつらかったよね? 苦しかったよね?』

「もみじ……?」

『ハルナのこと。それからお母さんのこと。ヒナタに言わなかったのは、隠してるみたいだったから。そして、葵が託された願いでもあったから』


 やっぱり知ってた。やっぱり気づいてた。


「……だから何? 言ったじゃん。オレはオレでいろいろ考えがあるんだって」


 それでも、オレが今してることは知らない。あいつに酷いことを。直接今も、オレはしてるんだから。


『逃げるの』


 ……逃げる? オレは、逃げたことなんてない。だって、オレにできないことなんてないし。


『逃げてないとでも思ってる? ……思い切り逃げてるじゃん。葵から』

「別に、オレは逃げてなんか」

『いっちょ前に嫉妬はするくせに。まあそのおかげで“脱オカマ”から助けてもらえたけど』


 終業式の時のことを言ってるのか。……別に。オレは、レンとくっつけようとして。


『好きだなんて言わないくせに、ヒナタだって襲いかけた』

「言っておくけど、するつもりなんてなかったし」

『でも現に葵にちゅー仕掛けたじゃん。今度は寝込みを襲ったりなんかじゃなくて』

「(……やめてよ。それ黒歴史なんだから……)」

『それに、……ヒナタ。わたしと葵は何を忘れてるの。クリスマスパーティーの日。ヒナタは、なんであの時英語教室にいたの』

「だからそれは言ったじゃん。モミジにも言ったでしょ。レンと一緒に計画してたけど、あいつが来ちゃってレンぴんぴんしてたから、大急ぎであれ使ったんだって」


 知らなくていい。思い出すことなんてしなくていい。オレだって、……あそこに置いていくんだから。


『なんか隠してるな』

「してないしてない」

『まあ、言いたくないんなら無理には聞かないよ』

「(……ごめんね、モミジ)」

『でも、このままでいいの? わたし、ヒナタには絶対幸せになって欲しくて……』

「大丈夫。オレは、あいつが幸せならそれで幸せなんだから」

『っ、だからそれが! ……っ』

「……あのね。絶対に言わないってわけじゃないんだ。可能性はゼロではないよ?」

『……!! ……そう。なの?』

「そう。だから、そうなるように祈ってて? オレも、そうなったらきっと、信じられないくらい嬉しいからさ」

『……? よく、わかんない。言えばいいのに』

「オレにもいろいろ事情があるの。だから……ね?」


 確かに、可能性はゼロではないだろう。ま、この上なくゼロに近づけようとするのは、他でもないオレだけど。


『……わかった! 怨念の力で絶対にそうしてみせる!』

「(恨んでるじゃん思いっきり。……でも、なんかできそうだから怖い)」


 でも……ごめんねモミジ。そうなったら確かに嬉しいけれど、それと同時にオレは怖いんだ。あいつに全部、話すことになるから。