『わたしは、別に責めるつもりはないよ? だって、決めるのは葵だもん。葵がいいならそれでいいんだから』

「じゃあ化けて出てこない?」

『はは! それはそれで面白そうだけどね?』


 モミジとこうして夜中に話をすることも、無くなるのか。


『……ヒナタ。今までいっぱい話聞いてくれて、ありがとう』


 そう言われると、やっぱり実感する。もう、くだらない愚痴を聞かなくて済むと思うと、やっぱり寂しいね。


『今まで、懸命に葵を助けようとしてくれて、……ありがとう』


 モミジに言われなくても、オレは初めから、会った時から助けようって思ってた。……でも、受け取っておいてあげる。


『修学旅行が最後だったね』

「何が?」

『面と向かって話せたの』

「……そうだね」

『会いたい、……けど。でも、みんなの前で出てきちゃったら』

「うん。……オレがなんとかするから。任せといて」


 修学旅行か。もう、四ヶ月も前になるのか。


『……ほんと、いろいろありがとうヒナタ。……もう。感謝でいっぱいで。なんて言っていいかわからないよ』

「……あのね、アオイ」

『ん? なに?』


 今日帰ってきたのは、モミジにだけ、話したいことがあったからだ。
 間違いだと思う。だって、もう会うことはなかったんだから。……それでも。道理に逸れたことだとわかっていても、そうせずにはいられなかった。


「ごめん。アオイじゃなかった。オレは、モミジにだけ話したいことがあるんだ」

『――――』


 電話の向こうは、驚きで息が詰まった。


「やっと呼んであげられる。……モミジ? ま、年上だけどいいよね。呼び捨てで」

『……ひ。なた……』

「今まで、たくさんつらいことがあったと思う。望月に始まり、あいつを助けたつもりが助けられてなくて。そして、……道明寺では死んでからも、嫌なことをさせられて」

『………………』

「だからね? これはみんなには内緒の話。オレが今すぐ、あいつの名前を呼ばないもう一つの理由」

『……。ひなた……』

「ほんの少ししか時間はあげられないんだけど……モミジも、我が儘になっていいと思うんだ。薬を渡した大本なんて、いくらでも焙り出し方はある。それでもそうしたのは、少しでもモミジにいろんなことをさせてあげたかったから。ま、縛りは多いけど」

『……。ひなた。……っ』

「教えて? 今本当に会いたいのは、オレじゃないんじゃない? なんとかしてあげるよ。今からはモミジのために、オレは時間を割いてあげる」

『……。わたし。は……』


 会いたいというなら、何としてでも会わしてあげよう。彼には少し先にネタバレになるけれど、それでもモミジのことだけ。あいつのことは、また本人の口から言ってもらわないといけないし。


『……。ううん。会いたいのはヒナタ。ヒナタだけだよ……?』

「……でも、モミジ……」

『いろいろ調べてくれたんだね。……名前はもしかして、クルミさんが?』

「……うん。教えてもらった。海にも行ったよ」

『……そっか』


 寂しそうで、でもどこか嬉しそうな彼女の声に、オレはなんと声を掛けていいかわからなかった。


『……あのね? いいの。重ねていたとこはあるけれど、今のわたしが気になったのはアキラだもの』

「それでいいの? 本当に? 会いたいなら会わせてあげられるよ?」

『うん。いいの。……会っちゃったらきっと、消え難くなる』

「モミジ……」


 でも、それは向こうも同じかも知れない。モミジのことを知れば、あいつのことを……。


『……だからね? ヒナタにお願いがあるんだけど……』

「ん? 何?」