「何言ってるの。結局九条くんは、そこまで酷いことはさせなかったじゃない」

「コズエ先生……」

「そうですそうですう。もっとコズエさんと一緒に使ってくれると思ってたのにい……」

「それは……まあ、今から頑張って」

「駒って言っておきながら、一番動いてたのは九条くんだよ。……最後まで頑張ろうね」

「……うん。最後の最後で一番キツいかも知れないけど、なんとか堪えてね」

『え。みんなそんなに働いてないの……? 私に対しては日向くん、扱いがかなり雑――』

「みんな。本当にオレを信じてくれて、ありがとう」


 危ない危ない。オレのいいイメージがぶち壊しになるところだった。


「……九条」

「あ。……レン。キツいかも知れないけど、そうはならないようにするからね」

「そうなのか?」

「うん、大丈夫大丈夫。まあ、レンがキツいことに変わりないけど、それでもレンは加減してね」

「……よくわからないが、善処する」


 大丈夫。そうはならないように、オレが動くから。


『ヒナタ……』

「また“その時“に頑張ってもらうことになるけど、今の間に言っておいたら?」


 オレがそう言ったら、みんなしてはっと気が付く。……大丈夫だ。モミジは、それを望んでいたんだ。最初から。


『……あの。本当に本当に。わたしのせいで、みなさんに迷惑を掛けてしまって。すみません』


 ただ、みんなは何も言わなかった。
 肯定など、できるはずはない。でも否定をしても、モミジがそう思ってるから言えないんだ。


『どうなることかと思った。どうもならないと思った。それでも今、こうしてたくさんの人のおかげで葵を本当の意味で助けてあげられると思うと、嬉しくて堪らない』


 自分が助けてあげようと思った。でも、それが傷つけることになってしまったんだ。長い長い間、ずっと苦しんできた。


『感謝してもし足りない。本当に本当にありがとう。……どうか、最後までよろしくお願いします。わたしの大好きな葵を。……一緒に助けてください』


 その言葉に、みんなやっと大きく頷いた。みんなの目的は、一緒なのだから。


 ――――――…………
 ――――……


「まだ電話大丈夫?」

『うん。大丈夫だよ』


 作戦を伝え終わったあと、オレは泊まらず家に帰らせてもらった。


「実は、あいつの名前、朝日向じゃないんだよ」

『え? ……どういうこと?』


 家には誰もいない。一人だから、スピーカーにしてモミジと話をする。


「カナタさん、婚姻届出してないらしいんだ」

『え』


 彼も彼で、いろいろ複雑な理由があった。だから、モミジにはきっともう聞くことなんてできないだろうから、オレからだけど話をしてあげることに。


「クルミさんの方は離婚届まで書いたらしいけど、それは知らなかったんでしょ? まあ書かれてもまず結婚してなかったんだけどね」

『……知らなかった』

「あいつにだけは絶対にバレないように二人も動いてたんだ。……だからアオイ、二人をどうか憎まないであげて欲しい。責めないで欲しいんだ」


 だって二人はもう。今までたくさん、自分自身を責めてきたんだから。