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「――機は熟しました」


 きっともう、集まることはないのだろう。全員で。


「……わかったのね。彼女の名前」

「はい。間違いないです」


 なんだろう。それはそれで、ちょっと寂しい気もするのは。
 ……うん。ちょっとじゃないね。もう、会えなくなる人がいるんだから。


「それはよかったですねえ。早速彼女を助けてあげましょう」

「ちょっと待って」


 まだ、もう少しだけ。
 オレのやり方は間違ってるのかも知れない。いいや、きっと間違っているんだろう。それでも。


「どうしたの? あおいさんの名前がわかったんだったら……」

「いろんな人から話を聞いてわかったんだけど……」


 秘書のミクリ、義父のアザミ、その妻エリカ。彼らはきっと、薬に狂わされてしまった犠牲者だ。
 それでも、それに手を出してしまったことは罪。それはそれとして、償っていかなければいけない。……問題なのは。


「……彼らに薬を渡した、大本の奴をおびき出す、か……」

「うん。その作戦でオレが考えてるのは――」


 まあ、これも確かに理由としてはある。でも、その裏に隠された【ギリギリまで引き延ばす本当の理由】は、誰にもバラさない。……バレちゃいけない。


「……それは。大丈夫なの?」

「ん? 何がですか?」


 最後の作戦を伝えたら、みんなが固まってしまった。


「そんなギリギリのことをしてえ、彼女が消えてしまうことがもしあったら……」

「ん? ああ、大丈夫大丈夫。ね? そうでしょアオイ」

『うん大丈夫! 何をきっかけに葵を乗っ取るかは、ヒナタと一緒に決めたからー!』

「そういうこと」


 結婚式を挙げること。それから、名前を呼ばれずにそのままあいつが誓うこと。……誓わせたりなんてしない。アイには悪いけど、オレが決めた王子が、あいつを掻っ攫っていくから。
 まあ、みんなには「軽いな~……」と苦笑されたけれど。


「なので、今度は守りに入ります」


 守りと言っても、もうあいつが誰にも話さないだろうと踏んでるからだ。きっと、話さない。誰にも。


「あいつをとことん追い込みます。言わせない状況を作り出して、“言わせます”」


 やっぱりみんなは首を傾げている。……全ては話せないけど。


「誰かにではなく、独り言でもいいんで、自分のことを話しさせればなんとか解決できるはずなんです」


 あとは、オレの最低な罪が拾ってくれる。モミジも聞いていてわからないといったふうな声を漏らしていたけど、モミジはモミジで仕事をしてもらう。
 作戦を聞いて、やっぱり疑問に思うことはあれど、オレが話さないとわかって何も聞こうとしなかった。……違うか。オレを。オレなんかを信じてくれたのか。


「……みんな。ありがとう」


 これでもう、最後にしよう。今までいろいろさせてしまって、本当にごめん。