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 深夜0時になった瞬間。鳴り響く着信メロディー。


『……あ。起きててくれたんですか。てっきり逃げられるとばかり』


 電話すると言われていた。
 だから、あのあとみんなが帰ったら即寝た。それはもうガッツリ。ていうか、君の電話で目が覚めた。


『……え。なんでそんな嫌そうなんですか。あなたにとってもすごく素敵な話なのに』


 ガッツリって言っても、みんなが帰ったのは夕方だ。そこから今の時間まで寝たとしても、今までの睡眠不足が消化されるわけはない。まあ、寝ないよりはマシだけど。


『……オレに言い負かされたこと、まだ根に持ってるんですか? いや、言い負かしたっていうより事実言っただけじゃないですか』


 だって、君は怖いんだ。何を考えてるのかもわからないし、みんなと話をしていた時に、俺のこと見て愉しそうに笑っていたから。


『……事実でも、言っていいことと悪いことがある? いやいや、認めていいんですかあなた。それ、“自分は気持ち悪いです”って言ってるようなものですけど』


 失礼な。気持ち悪くなんかないし。ただ匂い嗅いでただけだし。


『冗談はさておいて。……さっきのことで少し、話があるんです』


『さっき』というのは、始業式の日にみんなが、ここへ来た時に話したことだろう。……でも、それは……。


『……カード? ああ、わかってますわかってます。……あいつと話をしろ? いや、でもそれって、そのカードのことをですよね? ……日記を見せない? いや、まあ別にいいですけど』


 条件に出したのは、そのカードをわかって葵とまずは話をすること。それから、『もう一人』のことを知ってから、日記は見せることにしたんだ。


『……日記はいいのか? だから、いいって言ってるじゃないですかさっきから』


 なんで彼は、葵のことが書かれているというのに、日記の内容を知ろうとしないのかが不思議だった。……だからどうしても俺は、彼を疑わずにはいられないんだ。
 さっきの嘲笑った笑みといい、今こうして葵のことを知ろうとしないことといい。やっぱり彼は、俺の敵なんじゃないか、と。


『だってオレ、まだあなたとは話してないですし。一対一で、話をしましょうよ』


 電話からは、やはり愉しげに笑っているような声しか聞こえない。……何が愉しい。今葵は、時間がなくて苦しんでるというのに。
 少しでも早く、味方が必要なんだ。葵の名前を探してくれる仲間が。


『残念ですけど、オレはあなたの味方にはなりませんよ』


 そう言う当たり、彼は味方ではないんだろう。そして、きっと、葵のことを中途半端に知った敵なんだろうと。
 さっきは、みんなを信用して話した。それでも彼は、……やっぱり無理だったか。


『あなたには、こちら側についてもらいますので。悪しからず』


 実の姉を。双子の片割れを。葵と仲良くなってしまったせいで殺されてしまった女の子の、弟である君には……。無理、だったのか。


『場所は応接間で。……え? どこの? オレ帰ってないですよ。話したかったし』


 どうやら逃げ場はないみたいだ。それでも俺は、葵を守らないと。最後の仕事は、絶対に熟さないといけないんだから。


『カエデさんにも夜食準備してもらっちゃいましたし。ゆっくりお話しましょうよ』


 カエデは何も知らない。だから、どうして彼が残ってるのかなんて知らないんだろうけど。


『残念ですが、カエデさんもこちら側ですよ。ていうか早く来てくださいよ。今更逃げようなんてそんなこと、オレさせませんよ』


 ……まさか、カエデが? いやでも、あいつから葵のこと知ったなんて聞いてな――。


『うーん。来てくれないなら、……そうだな。宛先は、アキくんを初めとしたみんなと、カエデさんとシランさんかな。添付ファイルはー、……うん。これがいい。件名は、【元執事、メイドになる】……っと』


 でもそんなこと言ってられなくなったから、大急ぎで俺は応接間に向かったのだった。