「でもカナタさんは、本当にあいつが道明寺だってことは知らなかったんですか?」
「え? どういうこと?」
一度だけだけど、あいつもそういう場に顔を出したことがある。それもまだ幼い頃。2つ3つの頃に比べたらわからないかも知れないけど、それでも面影はあるはずだ。
「財閥とかのパーティーとかあるじゃないですか。そこであいつのこと見なかったのかなと」
「見てはいないね。俺が知っていたのは、あくまで道明寺の噂だけ。それに、俺が社長になれたのは30になった頃だし、そういう場には滅多に顔出さなかったよ。仕事してたから」
ということは、あいつにもアザミにも会ってはいない、……か。
「その噂って、あれですか? 英雄とか悪魔ってやつ」
「よく知ってるね。俺らの間だけで言ってるものだとばかり」
「その、“俺ら”の方から聞いたんで」
「……もしかして、皇家ご当主かな」
「ご名答です」
でも、……そうか。これでやっと……。
「カナタさん、あいつの写真とか動画見ます?」
「見たい……!!」
と言ったはいいんだけど、何故かカナタさんは立ち上がって、あるボックスの中を漁っていた。
「はいこれ。大事なものだから、中身見たら返してね」
「……はい。ありがとう、ございます」
そしてオレたちは、あいつの『今』と『過去』の写真を見せ合った。
「これ! これ欲しい!」
「データ送るんで、連絡先教えてください」
楽しそうに見ている様子は、完全にあいつと被った。
「ひなたくんもいるのあったら教えてね? 焼き増ししてあげるから」
「……オレはい――」
「いらないとか言ったら許さないから! ていうかどうしてこの写真たちを見ていらないとか言えるのかが不思議でならない! 欲しいでしょ!? 欲しいって言いなさーい!!」
「あ、……は、はい。それじゃあこれ……」
勢いに負けただけだから。別に欲しいとか…………あ。思ってたっけ、そういえば。
「(でも、確かにこれは……)」
あいつが、本当に幸せそうに笑ってる。それを、見られただけでオレは……。胸がいっぱいだ。
「すみません。帰りまで」
「ううんいいんだよ。……九条議員はいるかな? 今朝会っただけだし、できればご挨拶しておきたいんだけど」
「あ。……すみません。父とは別の家に住んでいて」
「お仕事の関係とかで?」
「……まあ、そんな感じです」
「そっか。それじゃあ、よろしく言っておいてくれるかな。俺の方からもまたお礼は言うつもりだけど」
「はい。伝えておきます」
「よろしく。……ひなたくん。また、連絡待ってるからね」
「はい。近いうちに、必ず」
そう言うとカナタさんは嬉しそうに笑って、オレの頭をわしゃわしゃっと撫でてきたあと帰って行った。
……これで、やっと。本当に。やっとだ。
「これで、……やっと……」
……さあて。攻め入ってやるとしますか――――。



