自分のことを『使えない』と言って、捨てた男を恨んでいた彼女の標的はもしかして……。
「……俺が、あんな言い方したからなんだろうな」
「でも、今カナタさんから話を聞いて思いましたけど、彼女が言ってた男性とカナタさん、全然繋がらないくらいにはあの人の中で悪化してますよ」
「それでも言ったのは俺だ。それは間違いでもなんでもない。……使えないと言ったのだって、間違いじゃない」
「……でも、それはあの人のことを思って言ったんでしょう? だから、きちんとそう話してあげたらいいと思うんです。みんな言葉が足りないだけ。話がちゃんとできてないだけなんです」
みんなみんな。『どうして』の部分を隠して隠して。それで傷付くのは相手なのに。守ろうとしている、大事な人なのに。
「でも、お話を聞いて思ったんですけど、結婚は最初からしていなかったと。そういうことですよね?」
「うん。でもきっと、くるちゃんもあおいもそれは知らなかったと思うから朝日向だと思ってる。それに、離婚届……まあ書いても意味ないものだけれど、離婚したことはあおいもハッキリとは知らないと思うんだ。だからその、あおいに憑いてる人は、あおい自身が朝日向だと思ってるから、その人も朝日向を奪ってる気持ちでいるんだと思うよ」
「ま、そうだとしか考えられませんよね」
あいつが、朝日向だと思ってるんだ。……それを言ってやりさえすれば、消えずに済む。
「ちゃんと、話をするよ。ミクにも白木院さんにも、……くるちゃんにもあおいにも」
「……はい。そうしてあげてください」
そうすればきっと。あいつも、自分のせいじゃないって、思ってくれるはずだから。
「ミクには活を入れに行こう! カエと一緒に!」
「あの。さっきから思ってたんですけど、カエって、カエデさんって名前じゃないですよね?」
「ええ!? なんで知ってるの!? ……ひなたくんって、財閥じゃないよね? 政治家さんの息子なだけだよね?」
「皇財閥の子どもとも友達なんですよ……」
「おう。なんて世間の狭いこと狭いこと……」
「ていうかちょいちょいカエデさん出てきすぎでビックリです」
「ん? そうなの?」
「それはいいとして。……それで? カナタさんは今からどうするんですか」
クルミさんは、あそこから出られない。でも、彼しか彼女をあそこから助け出してやることもできない。
「……言ったでしょ。望月の過去の、『そういうこと』を調べてたって」
「やっぱり、そうするんですね」
もう、彼女があそこへ戻ってしまわないように。そして、これ以上犠牲が出ないように。
「でも、これで警察が動いてくれるかどうか……」
「……ちょっと、見せてもらってもいいですか?」
「ああ、ひなたくんも知ってるんだっけ。……だったら大丈夫かな。見ても気分が悪くなるだけだけど」
そう言って彼は、金庫のようなものからその資料を取り出した。
「……結構詳しく調べたんですね」
「そうだね」
そこには、犠牲者の名前や年齢、どこで消えたか、そもそもの習わしのきっかけとなった災害等、過去の話がびっちりと書き記されていた。
「……もしかしたら、オレが言えば動いてくれるかも」
「ひ、ひなたくんは一体何者なんだ」
「人の弱みを握ってそれで脅すのが趣味の、ただの高校生ですよ」
「それは、『ただの』では済まないよ……?」
でも、警察を頼りにはできない。



