「もしもし!? 俺俺!! 今日は俺早退します! ……え? 詐欺? 詐欺じゃないよ~社長だから~。……いい!? 後は君に任せたからね!? なんとしてでもいいの掴んできて! 大丈夫だ! 君は俺よりできる子だから!! それじゃ!!」
カナタさんは、誰かにそう言い残して思いっ切り電話を切った。まあ多分、部屋の外にいる秘書さんだけど。
「どういうことですか社長!!」
案の定大きな音を立てて秘書さんが社長室に入ってきた。
「俺は今、人生最大の選択を強いられているんだ! 後は頼んだ!」
「そんな暢気なこと言ってる場合ではなく! 今日は絶対にキャンセルダメですって!」
「キャンセルじゃなくって君に任せるんだってー。大丈夫大丈夫。君はできる子だ」
「何言ってるんですか!! 今日の案件は社長がいないといけないでしょ!? バカですか!! やっぱりあんたバカだったんですか!?」
「あ。今頃わかったんだー」
「(あ。すっごい大事になっちゃったー……)」
それでも、そんな仕事を放ってでも、彼ならオレの話を聞いてくれるって思ってた。
「……たく。あなたですか。社長に何をふっかけたんですか!? ええ!?」
「え。別にふりかけ掛けてないですよ」
「そんな冗談を言ってる場合ではありませーん!!」
大変だ。オレまで巻き込まれてしまった。
これは何とかして欲しいんだけど、オレと秘書さんがバトルしてる間にカナタさんはさっさと帰り支度を済ませてしまった。
「それじゃあひなたくん! 車回してくるから、彼女に案内してもらって裏口まで来てくれ!」
「え……」
カナタさんは、るんるんで社長室を出て行ったんだけど……。秘書さんは怒り爆発寸前。
これは流石に予想外。……どうしよう。こうなるなんて思ってなかったよ。
「……ご案内致します」
「す、すみません……」
般若顔を貼り付けた秘書さんに案内され、エレベーターの前へとやってきた。
「あの方は、本当にお忙しい方なんです」
「そうですね」
本当に慌ただしい人だ。……え? そういう意味じゃない?
「お忙しい方ですが、決して仕事を放り投げるようなことは、私が知っている限り有りませんでした」
「……そうですか」
それでも、放り投げて欲しいんだ今は。だからオレは、怒られる覚悟だってしてきた。……まさか、二人きりにされるとは思ってなかったけど。
「一体社長に何を言われたのかは存じ上げませんが」
その時ちょうどエレベーターが開き、秘書さんが乗り込む。……密室空間だ。オレも今、人生最大の選択を強いられている。ま、乗り込む他選択の余地はないけど。



