「お久し振りですね。カナタさん」
「……白木院さん」
彼女は、俺の相手だ。父が言うには、どうやら俺にべた惚れらしい。
そういう場で見たらしいけど、そんなに俺は表にはこの頃出てなかったから、回数としては少ないはずなんだけど。ハッキリ言って、俺は覚えてすらない。
「心配していたんです。でも、こうして帰ってきてくださって、本当によかった」
「……それはどうも。心配をお掛けしました」
彼女には申し訳ない。身分的にも申し分ないかも知れないけれど、俺は彼女と、そういう関係になるつもりで帰ってきたわけではないから。
「申し訳ありません白木院さん。仕事の邪魔になるので」
帰ってきてから、評価を取り戻したければ仕事に励めと、父に会社へ早速放り投げられた。ぶっちゃけて言えば、そんなの取り戻さなくてもいいけれど。俺は、……決めたから。
「あ。それならお手伝いできることがあるかも知れません。よければお手伝いさせてください」
「……そうですか」
本当に。……彼女には申し訳ない。でも、その気のない俺のそばになんかいるよりも、きっと他にもいい人はたくさんいるはずだ。
「ここ、違います。それからここも」
「あ。……す、すみません」
彼女は俺に気を惹こうとして、俺の仕事を手伝うことを決めたらしい。だから俺は、それを使うことにしたんだ。ほんと。……最低野郎だな。
「白木院さん。それじゃあここではやっていけない」
「つ、……次は。必ず……」
俺も、なんだかんだでここ数年、何もしてなかったわけじゃない。前の仕事場では、きちんと謝罪をして辞めさせてもらうことになったけれど、仕事ができていなかったわけじゃないんだ。
そりゃ、俺なんかよりも彼女やあおいの方が十分優れてるから、しょっちゅう間違いとか添削とかしてもらってたけど。決して、俺自身の力が伸びてないわけじゃない。
「……白木院さん。次なんてものはないんですよ」
次があれば、どれだけよかったか。
俺は今でもそう思う。でも、人生そう甘くはない。次なんてもの、有って無いに等しい。
「それじゃあ使えません。あなたはここではやっていけない」
「……!! で、でも。失敗ばかりでは……!」
別に普通だろう。嘗ての俺だ。平凡。よくも悪くもない。だから、尚更。
「申し訳ないですが、ここに必要なのはあなたじゃない。それから、俺は誰とも結婚するつもりはありません。ですから、婚約のことをお考えでしたら、それはもう諦めてください」
「……!! …………。失礼。します……」
こんな最低な男のことなんか、忘れればいい。きっとあなたには、他にもいい人が見つかります。大丈夫だ。
そうして彼女は、ここから出ていった。そう仕向けるようにしたのは俺だけど。



