すべてはあの花のために➓


 あおいが必死でこちらへと手を伸ばしている。降りようとしているが、あおいはまだ泳ぐことは知らない。


「おとうしゃんっ!! おかあしゃんっ!! なんで?? なんでッ!?」


 すまないと、謝って済む問題ではない。
 ……諦めたくない。彼女は、もしかしたら俺と分かれたあと、あおいを迎えに行くかも知れない。

 でも、どこかでわかっていた。そうはしないんだろうって。


「(どうか。……どうか、お願いします。海の神様。望月の、神の子どもたちよ)」


 焼き付けよう。これ以上ないほどの、最低な俺の罪を。


「(どうか。……生きてくれ。あおい)」


 できる。絶対に、あおいにならできる。
 そう、思ってないと、今にも駆けて行ってしまいそうだ。泳いでいきそうだ。


「(どちらにしても、俺が助けたところで、あおいが危険にさらされることに変わりはない)」


 ――ああ、よかった。
 ……これでよかったんだ。

 これ以外、あおいが自由に生きていける方法は。……無いんだから。


「(……っ。いいわけ。あるか……っ)」


 きっともう、全てが間違いだったんだ。
 あおいをここへ捨てたことも。あおいを生んだことも。彼女を好きになってしまったことも。

 あおいの悲痛な声が、耳に残る。それでも泣けない俺はもう。……おかしいんだろうな。


「さようなら。もう会うことなんてないだろうけど」


 それでも、諦めたくない俺も、もうおかしいんだろう。


「(……諦めない。俺は、絶対に諦めたくなんてない)」


 彼女のことも。そして、あおいのことも。
 巻き込んでしまった。それはもう、大きな罪だ。……それでも。


「(……諦めない。絶対に。最後まで……!)」


 だから、俺は言わないよ。くるちゃん。君があの時『言わないで』って言ったんだ。
 だから――……言わない。『さよなら』なんて。絶対に言わないよ。


 そう決意をして、俺は家へと急ぐ。涙はまた、二人に会えた時のために、大事に取っておこう。……そう、心に決めて。


「……カナタ様……」

「爺や。今まで心配掛けたね」


 帰ってきた俺は、特に咎められることはなかったけれど、初めはみんなの視線が痛かった。
 それでも決めて帰ってきたんだ、俺は。だから、どんなことがあったって負けない。


「爺や。悪いんだけど」


 それから、人生を棒に震わせてしまったあおばの新しい仕事場を与えるよう、俺は爺やに頼んだ。あおばも、もう巻き込んでしまわないように。そう思って。